エベーヌ弦楽四重奏団|2022.6.18 びわ湖ホール

 

室内楽への招待> エベーヌ弦楽四重奏団

■2022年6月18日(土) 17時開演
びわ湖ホール(小ホール)

ハイドン弦楽四重奏曲 第34番 ニ長調 op.20-4 Hob.III-34
ヤナーチェク弦楽四重奏曲 第1番「クロイツェル・ソナタ

シューマン弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 op.41-2

 

6月16,17日と連夜開催された紀尾井ホールでの公演を終え、休む間もなく大津に移動しての演奏会。

完売満席のびわ湖ホールでも、圧巻のパフォーマンスを披露してくれました。

タフな四人組です。

www.quatuorebene.com

 

これほど技術的完成度の高さとセッション感を両立できるカルテットは稀だと思います。

ヤナーチェクを挟んで古典派とロマン派が組み合わされた、一見、脈絡がないようにも思えるプログラム。

不思議に親密なダイアローグの面白さが3曲いずれからも、まず、感得されました。

ハイドンの機知、シューマンの異例な幸福感、そしてヤナーチェクの黒みを帯びた官能。

全て聴き終わって感じたのは、こうした作品それぞれが持つ特色を活かし尽くす、この団体にしか出せなさそうな「対話」と「融合」の妙技です。

 

ハイドンの作品20、「太陽四重奏曲集」は、モザイク弦楽四重奏団の偉大な実績がすでにあって、ピリオド奏法による鮮烈かつ繊細な再現が一つの基準になっていると思うのですが、エベーヌはこのニ長調の作品で、全く新しい解釈を披露してくれました。

執拗に繰り返される第一楽章第一主題を、その度にふわりと新しい波を起こすように立ち上げ、聴衆に向かって流し込んできます。

たっぷりとしながらも弛緩しない、上質な肉筆画のような音楽。

4人それぞれに自主的なアクションをとっていながら、全体はその音色も含めて見事に溶け合っているので、細かいパッセージにいちいち豊かな倍音が伴い、旨味と透明感が両立された音響が出現。

びわ湖小ホール後方席がもつアコースティクの良さも再認識。
たとえば紀尾井の特に1階席ではこれほど豊穣かつ繊細な響きは得られないと思います。

ヴィヴラートを抑制気味に細かく差配することで、必要以上に旋律と響きが輻輳しないように配慮されていて、しっかりピリオド系のテクニックも取り入れています。

古典のフォルムをギリギリの線で維持しながら、隅々まで鮮度よく活性化が図られた極上のハイドンが聴かれました。

 

後半のシューマン2番も、インティメートさとこの作曲家らしい中間色の美しさが際立つ大変な名演でしたが、圧巻は、やはり、「クロイツェル・ソナタ」でした。

色彩的な官能表現に偏ることなく、かといって正確無比なモダン系に仕上げるわけでもない。

ときに弦が切れてしまうのではないかとドキドキするくらい「摩擦」の熱を籠らせるかと思えば、精妙な弱音のハーモニクスを駆使し、この作品の持つ秘めやかな「聴いてはならないこと」を明らかにしてしまうその表現力。

もちろん非常に微細なミスや粗さはありましたけれど、こんなに「抉ってくる」ヤナーチェクもなかなかありません。

最終楽章、第一楽章の主題が回帰する場面での、戦慄と安堵がじわりと混ざり合うような感覚。

心身両面にくる壮絶な演奏でした。

 

なお、アンコールはシューマンの作品99、小品集第1曲の弦楽四重奏編曲版、でした(びわ湖ホールのホームページより)。

 

日本での3日連続公演終了後、来月にはスイス、ヴェルビエ音楽祭に登場するそうです。

 

 

 

`round midnight: Dutilleux, Merlin, Schonberg

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