高島屋史料館の「世界三景」

 

特別展示 生誕150年 山元春挙高島屋

■2022年7月16日〜8月15日
高島屋史料館

www.takashimaya.co.jp

 

山元春挙(1872-1933)生誕150年の今年、すでに滋賀県立美術館が大規模な回顧展を開催しています(笠岡市立竹喬美術館・富山県水墨美術館へ巡回)。

 

同展でも展示されていた春挙の大作「ロッキーの雪」(1905)は、高島屋史料館が誇る「世界三景」を構成する一枚です。

今回、春挙イヤーにあわせて竹内栖鳳「ベニスの月」(1904)、都路華香「吉野の桜」(1903)と共に一挙三幅を公開する企画展が開かれました。

 

栖鳳を真ん中に、左に春挙、右に華香の作品を並置。

圧巻です。

大きさは全て220cmX174cmで統一されています。

いずれも、高島屋が力を入れていた「ビロード友禅」の下絵として制作されたもの。

1910(明治43)年、日英同盟更新を記念してロンドンで開催された日英博覧会にあたり、高島屋はこの三枚のビロード友禅を「世界三景」として出品。

「ロッキーの雪」と「ベニスの月」は、現在、大英博物館に収蔵されています(「吉野の桜」のみ行方不明)。

 

www.britishmuseum.org

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原画三作を一度に鑑賞するのは初めてです。

繊細優美な華香の桜はうっすらと色彩を帯びていますが、栖鳳によるサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂を描いた水景は墨一色、春挙の山岳風景はやや青みを帯びた墨画

抑えた色調にもかかわらず、淡いグラデーションの技法を駆使して奥深い遠近感が表現され、絵の中に吸い込まれそうになる感覚を覚えます。

ビロード友禅は外国人向けの染織美術品という側面をもっていました。

したがって三人とも西洋の眼を意識していますが、単に洋画風の趣を狙うのではなく、写実と日本画の様式を巧みに組み合わせているので、おそらく当時、世界を探しても類例を見出せないような「三景」が創造されています。

 

実は高島屋は1903(明治36)年、大阪で開かれた第5回内国勧業博覧会で、すでにビロード友禅「世界三景」を製作しています。

竹内栖鳳が富士山、都路華香がナイアガラの滝、山元春挙はスイスの風景と、1910年の「世界三景」と同じ顔ぶれの画家が下絵を担当していました(しかし、この1903年版は現在行方知れずとなっています)。

高島屋は、日英博覧会出品にあたり、実績をもっていた三画家に再度、「三景」の下絵製作を発注したということになります。

一部はめでたく大英博物館のコレクションに収まったわけですから、高島屋によるこのプロジェクトは一定の成功をおさめたといえそうです。

 

明治から昭和前期まで活躍した高島屋当主飯田新七(四代目)は、京都近代化の契機ともなった第4回内国勧業博覧会の審査官になる等、家業の呉服商を拡大しつつ、染織業界全体を牽引した人物でした。

彼の別荘「呉竹庵」に飾られていたという春挙の「富岳之図」は巨大な四曲一双の屏風絵です。

 

 

右隻はほぼ富士の裾野だけが簡略化された筆で描かれています。

一方、左隻には写実的な富士山頂の様子が丁寧に写され、雄大さと緻密さがシンプルな造形美の中に両立している傑作。

呉竹庵(焼失し現存せず)の大広間を飾ったと思われるこの屏風は、まさに部屋の中に富士の風景そのものを運んだようなスケールで主人や客人たちを楽しませたのでしょう。

滋賀県美の春挙展は代表作をほぼ網羅した非常に質の高い内容でしたけれど、同展に出品されていなかったこの「富岳之図」の迫力も大変なものです。

 

小規模な無料の企画展でしたが、高島屋と春挙の結びつきを物語る大小の作品が手際よく展示されていて、とても見応えがありました。