特別展 綺羅きらめく京の明治美術ー世界が驚いた帝室技芸員の神業
■2022年7月23日〜9月19日
■京都市京セラ美術館
鶴首していた展覧会です。
もっぱら明治期に絞り、京都にゆかりをもつ帝室技芸員たち19人を特集する企画展。
全国各地から逸品を取り寄せていて、京都市美術館単館の特別展としてかなり力が入った内容となっていると思います。
(なお今回は通常コレクション展が開催されている南回廊1階が会場にあてられています)
1890(明治23)年に制度化された帝室技芸員には、1944(昭和19)年までに計79名が任命されています(制度自体の廃止は1947年)。
今回は「明治京都」に関係しているという前提条件がつけられているので、同時代の超絶技巧系大家であっても、例えば、柴田是真、濤川惣助、鈴木長吉といった人たちは登場しません。
また、竹内栖鳳や山元春挙も当然に少し組み込まれてはいますが、本展では彼らの前の世代、つまり森寛斎、幸野楳嶺といった幕末から明治にかけて主に活躍した画家たちに焦点があてられています。
この国で「美術」という言葉自体が初めて使われてからまだ20年も経っていない頃に制度として現れた「帝室技芸員」というステイタスには、かなり「技術」「技巧」が重視されていた面があります。
明治期、帝室技芸員の絵画分野に関しては、円山・四条派をはじめとする京都画壇が一定の存在感を放っていますが、森寛斎、幸野楳嶺、望月玉泉といった巨匠たちの作品からまず感じられるのは、その圧倒的な「技術力」の凄みです。
川端玉章や野口小蘋は京都画壇の人とはいえませんが、その本格的な画業の開始が京都にあったことから本展に登場しています。
玉章の「ナイアガラ瀑布図」(広島県立美術館)、「八幡太郎之図」(東大駒場博物館)や、野口小蘋の「春秋青緑山水図屏風」(静嘉堂文庫美術館)では、絵画における超絶技巧といっても良い精緻な画面をみることができます。
キービジュアルに採用されている望月玉泉の「唐獅子牡丹図」は東本願寺御影堂後堂に置かれた衝立。
渦を巻く獅子のたてがみは漆工芸のような美しさで、画力というより職人技といった方がしっくりきます。
帝室技芸員という存在が、日本画においても「技」の力を絶対条件としていたことが伝わってくる作品の数々に圧倒されます。
また、実にさまざまな所蔵者から作品を取り寄せているところが本展の魅力で、キュレーターのもつ情報量の高さに唸らされました。
こうした明治前・中期頃までの「技」の日本画に対し、竹内栖鳳の「熊」(1910)あたりになってくると、そこに「技芸」の「芸」の面が強く滲んできているように感じます。
もちろん栖鳳も大変な技巧派ですが、伝統の技を超えた「何か」が時代に求められはじめています。
そんな「技」と「芸」、二つの頂点を極めたような作品が富岡鉄斎「阿部仲麻呂明州望月図・円通大師呉門隠栖図」。
西宮の辰馬考古資料館が誇る傑作です。
今回展示されている絵画の中でとりわけ圧倒的存在感を示す六曲一双(ただし、本展での展示期間は8月7日までと短いので注意が必要です)。
展覧会の後半は並河靖之の七宝、三代清風與平の陶芸など、お馴染みの傑作工芸作品が並びます。
ユニークだったのは、加納夏雄による金工と二代川島甚兵衛の染織。
前者の技は硬貨に採用され、明治の金貨がその図案とともに陳列されています。
明治3年、大阪に設置された造幣寮内の迎賓館で天皇夫妻がくつろぐために作られた椅子です。
やや傷みも見られますが、その高級感は色褪せていません。
超絶技巧の大家、初代宮川香山による明治バロックともいうべき陶器が東博や田邊哲人コレクションから出張し、最終章を飾っていました。
工芸を中心とした従来の「幕末明治超絶技巧」系展覧会に比べ、京都画壇の成果を大きく取り入れつつ、川島織物につながる染織の実績などを織り交ぜている点で、とても京都市美らしい企画になっていると思います。
なお、写真撮影は全面的にNGです。
以前、撮影可能なところで写した初代宮川香山の作品を下記に添付しておきます。