京都市立芸術大学主催 展覧会「霧の街のクロノトープ」
■2020年12月5日〜12月20日
■北河原市営住宅跡地(京都市南区)
東福寺方面から九条跨線橋を歩いて渡っている途中、京都駅が見える北西の方角に白いモヤモヤした煙のようなものが見えました。
現在開催中の「霧の街のクロノトープ」が発している霧です。
わずかに垣間見える程度ですが、鴨川にかかるこの橋からも位置を確認することができます。
霧の彫刻家・中谷芙二子が、ダムタイプのメンバーでもある高谷史郎とコラボレーションした大規模インスタレーションです。
京都市立芸大は、今年で開催から50周年を迎える大阪万博へのオマージュ展を京都で2つ開催。
一つはKCUAギャラリー(堀川御池)で開催している「バシェの音響彫刻」展。
万博鉄鋼館で展示されたバシェ兄弟の作品を蘇らせていました。
そしてこちらはペプシ館で名を馳せたという中谷芙二子の霧の彫刻。
音と霧。
どちらも空気に依拠しながら、片時も固定されることがない、うつろいの世界です。
今年2020年のはじめ、東京都現代美術館でダムタイプの大規模な特集が組まれました。
まだコロナが深刻化していない頃。
同時開催されていた皆川明「ミナペルホネン」展の混雑ぶりに比べると客入りは少なく一見地味な企画になっていましたが、内容は特級。
さまざまなメディアが駆使されたインスタレーションと貴重な映像記録の数々に圧倒されました。
ただ、創立からのメンバーである高谷史郎は、最新のメディア・テクノロジーに拘泥してはいなくて、この「霧の街のクロノトープ」では究極のアナログ・メディアともいうべき「水と空気」をテーマに中谷芙二子と共演しています(ただし、彼の仕事はもっぱら照明アートのようですから、昼間見てもイメージできないかもしれません)
スクエア状に組まれたスチール製とみられる物体。
そこから一定間隔で霧が噴出されます。
私が訪れた時は20分おきに4分間の噴射。
常時霧が漂っているわけではなく、タイミングによっては結構待ち時間があります。
中に入れるのは金曜日から日曜日の間だけ。
その他の日も外縁から眺めることはできるようです。
霧といっても人工的に作られた水の粒。
間近で浴びると水滴が服に付着します。
体験としてはとても面白いのですが、寒空の下では凍てつくことになります。
服装はちょっと考えたほうが良いかもしれません。
直接浴びない程度の距離で眺めると、周囲の風景と霧の織りなす異空間に陶然とします。
私は昼間に鑑賞しましたが、夜はおそらくまったく違った風情になると思われます。
クロノトープとは「時空間」という意味。
周りには閉じられたままのスーパーらしい建物。
霧の中で見ると、時間が宙吊りになったような不思議な感覚に襲われます。
ここは映画「パッチギ!」ゆかりの場所。
この作品では大阪万博がまもなく開かれる1960年代末が描かれていました。
それから50年。
そして、さらにはるか昔、平安京に遡れば、ここからすぐ西、九条富小路辺りには関白九条兼実の邸宅があり、兼実に仕えていた藤原定家が東洞院通を通って内裏方面に通勤していたそうです(村井康彦『明月記の世界』)。
鈴木博之の『東京の地霊』では土地にこめられた歴史の澱のような魔力が語られていましたが、京都ではその層があまりにも深くて多彩なので一つの場所から幾重にも時空が立ち上ります。
京都のゲニウス・ロキは大勢いるのです。
それら歴史の澱の層をゼロにするようでもあり、再び呼び起こさせるようでもある「霧」、でした。