小村雪岱 スタイル 江戸の粋から東京モダンへ
■2021年2月6日〜4月18日
■三井記念美術館
肉筆画から舞台装置の原画まで。
53歳と長くはないその生涯の中で多岐にわたる仕事を残した小村雪岱(1887-1940)を回顧する企画です。
2019年末、岐阜県現代陶芸美術館から一旦スタートした巡回展ですが、続く東京展はコロナの関係からほぼ1年順延されての開催となりました。
展示されている作品の大半が清水三年坂美術館の所蔵品です。
幕末明治の超絶技巧工芸コレクションで知られるこの美術館。
創設者でもある村田理如館長の趣向と小村雪岱の結合は意外な印象を受けます。
これでもかと技巧を凝らした装飾工芸品の数々と、シンプルに形のエキスそのものを線に表したような雪岱の美は、一見対極に位置しているようにみえなくもありません。
監修者の山下裕二によると、清水三年坂美術館雪岱コレクションの元となっているのは画家山本武夫の旧蔵品。
山本の死後、村田館長がまとめて買い取ったという経緯にあるようです。
工芸品のように漸次集められたわけではなく、いわば「一気買い」された作品群ということになります。
戦前まで売れっ子画家だった小村雪岱が戦後急速に忘れられていったのは、50代前半での急逝と、いわゆる画壇に属さず挿絵や装丁といった商業絵画の世界を活躍の場としていたからといわれています。
2017(平成29)年7月にテレビ東京系列で放送された「美の巨人たち」でこの画家の「青柳」が取り上げられました。
私はこの番組で初めて小村雪岱の名を意識。
極端に単純化されたデザイン性の高い画風に惹き込まれた記憶があります。
今回の企画展ポスターにはその「青柳」が採用されています。
ポスターを見た時、一目で小林薫のナレーションと共にあの番組の記憶が甦ってきました。
どの作品にも、かたちや情感を、まるで、金魚掬いですっととりあげたような無駄のない線描がみられます。
それでいて写し出された美人や景物は散らかることなく画面にピシリと張りついて観る者の視点を強烈に固定させる作用をもっている。
美の取り出し方と固め方が極度に洗練された画風。
だから一度観ると忘れられないのでしょう。
シンプルな手法が際立つ画家ですが、今回の展示で驚いたのがその舞台美術関連作品です。
横長の舞台装置に配された家屋や内装が織りなす写実性の高い設えは、雪岱の空間表現の見事さと確かな技巧を感じさせるものばかり。
ここに描かれた設定通りに舞台が再現されたとすれば、それだけで一級の美術空間となったのではないかと推測させられます。
清水三年坂美術館コレクションの本流である近代工芸品が、展示に厚みをもたせるために組み合わされています。
雪岱の美と呼応するように比較的シンプルな意匠の作品が取り揃えられていました。
これらの明治工芸品とは別の基軸で組み合わされた現代作家の作品も機知に富んでいます。
おそらく巡回展初回を担った岐阜県現代陶芸美術館のセンスが組み込まれているのでしょう。
彦十蒔絵による「鉄瓶 鉄錆塗」の時間を形に写す技巧の素晴らしさ。
白井良平による「青柳」へのオマージュ「目薬と手鏡」にみる余情と余韻。
面白い取り合わせでした。
この展覧会は事前予約制です。
当日直前までネットで受付ていますが閉館が16時と早いのでやや注意が必要かもしれません。