<Basso Continuo>4 ジョルディ・サヴァール&エスペリオンXXI
ルネサンス&バロックのダンスと変奏~旧大陸、そして新大陸から~
■2023年10月29日
■青山音楽記念館 バロックザール
ジョルディ・サヴァール(ヴィオラ・ダ・ガンバ&ディレクション)
シャビエル・ディアス=ラトレ(ビウエラ&バロックギター)
アンドルー・ローレンス=キング(スペイン式バロックハープ)
ダビド・マヨラル(パーカッション)
「サヴァール老いたり」と感じるか、あるいは「老いてもなおサヴァール」とみるかで評価が分かれそうな公演だったかもしれません。
私は、初めのうちは「老いたり」とちょっと聴こえたのですが、だんだん「老いてもなお」に変化。
最終的には、エスペリオンXXIによる「大人たちのグルーヴ感」に魅了されてしまい、大満足の演奏会と感じた次第です。
ジョルディ・サヴァール(Jordi Savall 1941-)は今年82歳を迎えています。
冒頭「老いたり」とか「老いてもなお」などと随分失礼な言い方をしてしまいましたが、一般的な年齢としてみた場合でも、十分、ご老体なわけです。
黒シャツ姿の巨匠はまるで達観しきった彫刻家のようにもみえました。
このアーティストは、近年ではガンバ奏者というより、ル・コンセール・デ・ナシオンとのベートーヴェンのシンフォニーなどに大成果がみられ、指揮者としての活動が中心になっているイメージがあります。
一方で、弦楽奏者としてはフィジカルに限界が近づきつつあるのではないか、そういう危惧を公演前に若干感じてはいました。
プログラム前半の2曲目はトバイアス・ヒューム(Tobias Hume 1569-1645)の無伴奏バス・ガンバ曲。
サヴァールのソロです。
バラク・ノーマン1697年製のオリジナルは、もうそれだけで博物館入りしてもおかしくない貴重な逸品であり、かなり繊細な調弦を必要とする楽器とみられます。
入念にチューニングを演奏直前までサヴァールは行っていましたが、ときに音程に微妙な齟齬が感じられたり、ボーイングも安定しないところがみうけられたと思います。
かつてこの人がマレやクープランで聴かせた深く甘美なガンバのしっとりとした音色と息づかいが、曲想の違いはもちろんあるものの、残念ながらこの前半のソロ曲では出現しなかったようです。
多くの鑑賞者も同様に感じたらしく、この後、フランセスク・ゲラウ(Francesc Guerau 1649-1717)のソロ・ギター曲を弾いたジャビエル・ディアス=ラトレ(Xavier Diaz-Latorre 1968-)の方がサヴァールよりも拍手を多くもらっていたくらいです。
しかし、次第に「温まってくる」といいますか、最年少メンバーである打楽器のダビド・マヨラル(David Mayoral 1973-)のチャーミングな口琴のパフォーマンスが組み入れられた前半の最終「ムーサたちの涙」あたりから、セッションの温度が程よく上がってきたように思います。
後半のフォリアでは、サヴァールの超速演奏が次々と繰り出され、ときに演奏の最中にチューニングまで行いながら、このジャンル特有の狂騒感が見事に表現されていきました。
フォリアが本来もっている「即興」の愉しみを、練達のガンバ芸で伝達してくれていたと思います。
バロック・スパニッシュハープのアンドルー・ローレンス=キング(Andrew Lawrence-King 1959-)はじめ、ギターもパーカッションも、サヴァールの演奏をとても気遣いながら息を合わせていたところが印象に残りました。
かつてのエスペリオンであれば、もっと「外側」に音楽の熱量を発散させるシーンもあったと思うのですが、こうしたメンバー間の繊細な配慮とコミュニケーションが、結果として、十分にグルーヴ感はあるのに、演奏にある種の内省的な趣を与えていたようにも感じます。
サヴァールが圧倒的存在感で仕切りきるのではなく、彼を中心としつつも、各奏者たちが、まるで旋律の「襞」を合わせていくような合奏。
エスペリオンXXI の現在が美しく再現されていた思います。
今回の来日公演は、横浜、京都、三鷹の三ヶ所。
いずれも美しい音響をもったホールが選ばれています。
神奈川県立音楽堂や三鷹の「風のホール」も素晴らしい響きをもった器ですが、おそらく今回鑑賞した京都、上桂のバロックザールがベストなのではないかと思います。
当然に完売満席の客席。
面白いことにエスペリオンXXI のセッション感が高まるにつれて会場の空気も温まっていくようなところがあって、とても素敵な雰囲気が醸成されていたように感じました。
ご機嫌のサヴァールはアンコールを2曲サービスし、他の3人を引き連れつつ笑顔でステージを後にしていました。
なおブログラムは以下の通りです(バロックザールHPよりコピペ)
◆ルイス・デ・ミラン:
ファンタジア第8番、第38番、
パバーヌ第1番、ガイヤルド第4番
◆トバイアス・ヒューム:
ヒューム大尉のパヴァーヌ~ガイヤルド、
たったひとりで行軍する兵士(無伴奏バス・ガンバ)
◆作者不詳(カタルーニャ地方)/サヴァール編:
アメリアの遺言、糸を紡ぐ女
◆フランセスク・ゲラウ:
エスパニョレータとフォリア(バロックギター)
◆ジョン・ダウランド:いにしえの涙
◆アントニー・ホルボーン: ムーサたちの涙、妖精の円舞
◆アントニオ・デ・カベソン:パバーヌと変奏
◆ジュアン・カバニリェス:
序曲~イタリアのコレンテ
マラン・マレ:フォリアによる変奏
◆ルイス・ベネガス・デエネストローサ:
カベソンのファンタジア、スペインの調べ
◆アンリ・ル・バイイ:
パッサカリア「わたしは狂気」(スペイン式バロックハープ)
摂政殿のラント~モイラの君主~ホーンパイプ(リラ・ヴァイオル式に弾くヴィオラ・ダ・ガンバ)
◆サンティアーゴ・デ・ムルシア:
サルディバル写本より ガリシアのフォリア~イタリアのフォリア~、
舞踏曲「狂気の蜜」
(アンコール)
「カナリオス」に基づく即興演奏
「狂気の蜜」に基づく即興演奏(フォリア&ガイヤルド)