「日本美術の裏の裏」展|サントリー美術館

 

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リニューアル・オーブン記念展II「日本美術の裏の裏」

■2020年9月30日〜11月29日
サントリー美術館

 

裏の裏は、表です。

英語表記ではこの展覧会、"Japanese Art: Deep and Deeper"と題されています。

リニューアル記念第1回展に続き、この美術館が所蔵する名品をあらためて自信を込めてほぼ満遍なく紹介しなおそうという企みが仕込まれています。

 

リニューアルといっても、今年建物自体と名前まで変えてしまった同様の企業運営系私設美術館「アーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)」とは違い、マイナーチェンジといったところ。

いわれなければ、どこが変わったのかよくわからないレベルです。

前よりもやや全体の明るさが抑えられて、よりシックになった感じは受けます。

7月から改装後のリニューアル記念展を開始、今回はその第二弾。事前予約の必要はありませんが、入館前の体温チェックとマスクチェック(単につけているだけではなく、鼻が隠れているかまでチェックされますよ)があります。

あまりに混雑すると入り口で待たされるようですが、平日で、会期末間際でもなければ問題はないでしょう。

10月初旬現在、実際、ガラガラでした。

 

再開記念第1回展ではこの美術館の至宝、国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」を冒頭に堂々と置いていました。

続くこの第2回展では捻りを効かせて円山応挙の「青楓瀑布図」をもってきています。

大画面中心の屏風絵等を集めたコーナーから、七澤屋によるミニチュア調度品の特集に遷移、中盤で地味ながら多彩な表情をもつ陶器類をじっくり紹介した後に、乾山や佐竹本三十六歌仙絵「源順」など重文クラスの華麗な作品群によってクライマックスを迎えます。最後に広重の洒脱で出口に送り出すという流れ。

 

顔見世興行的だった第1回展より全体として構成と流れがしっかりしている印象を受けます。

この美術館が収集の指針としている「生活の中の美」。

そのコンセプトがより鮮明に示されているコレクション披露企画です。

 

土佐光高作と伝えられる「洛中洛外図」屏風は、このカテゴリーにおける最高傑作である上杉本あたりから比べるとかなり形式化が進んでいます。

しかし、それゆえにわかりやすい。

堀川通を軸線とし、二条城と内裏を中心にすえて市中の各名所が明快に図示されています。

面白いのは展示方法で、左隻、右隻を向かいあわせて対に立て、間の足下にある床に絵のサイズにあわせて京都市内の簡単なマップを示しています。

適当に名所を描いているように見える洛中洛外図屏風ですが、実は、かなり忠実に市内における各名所の位置関係を反映していることが実感できる仕組み。

実際にハレの場の生活空間で使われていた様子が再現されています。

 

この美術館は「放屁合戦絵巻」(今回は展示されていません)等、おもしろ系またはヘタウマ系の絵画を集めていることでも知られますが、今回は「かるかや」がとりあげられています。

どう見ても下手な絵巻なのですが、切実で悲惨な物語と合わさると不思議な情感がこみ上げてきて、惹かれました。

 

今回、最も見応えを感じたのは池大雅「青緑山水画帖」。

小さい画面に大雅独特の点描的な筆で典雅に、しかも濃密に風景が描きこまれた逸品です。

付随している、鮮やかな青地に金泥で書かれた漢詩のスタイリッシュさも素晴らしい。

 

前半にこの美術館で最も好きな「武蔵野図屏風」が展示されています。

月の隠れる山際すらない、茫洋とした関東平野薄野が工芸的な様式美で表されているのですが、展覧会終盤、今度は尾形乾山の名品「白泥染付金彩薄文蓋物」で同じ武蔵野の薄が回顧されます。

これぞ、「裏の裏」と言いたくなる組み合わせ。

洒落た企画展です。

 

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尾形乾山 白泥染付金彩薄文蓋物