第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展
日本館展示帰国展「Cosmo-Eggs | 宇宙の卵」
■2020年6月23日〜10月25日
■アーティゾン美術館
映像、音楽、空間デザイン、テキスト。
4つの要素で一つのインスタレーションが出来上がっています。
1人のキュレーターと映像作家、作曲家、建築家、人類学者の4人が語らって造りあげた作品。
製作準備からこの日本帰国展に至るプロセスを含めて、丸ごとヴェネツィア・ビエンナーレから切り取って紹介するという大胆な企画展です。
もちろん、現地日本館とアーティゾン美術館ではスペース上の違いが大きいし、コスト面から様々な制約がかかったようなので、100%再現されているわけではないと思われます。
しかし、モダンアートの最も有名な祭典の一区画を身近に体験できるという意味で画期的。
自由に座ったり寝っ転がることができる柔らかく平べったいかぼちゃのようなオブジェ。
その真ん中からチューブが上に向かって伸びていきます。
チューブから吹き込まれる空気によって大小のリコーダーから音が断続的に響く。
周囲には「津波石」の映像。
それらを連関させる太古の神話テキスト。
情報量は滅茶苦茶多いのですが、不思議と寛げてしまう空間が提供されています。
キュレーターの服部浩之がビエンナーレ参加の打診を受けたのは2018年3月なのだそうです。
それから映像美術家の下道基行、人類学者の石倉敏明の順に声をかけ、3人で相談した後に作曲家の安野太郎、建築家の能作文徳に参加を打診。
会場に掲示されている服部の製作プロセス・タイムラインによるとこんな流れでメンバーがほぼ1ヶ月程度で決まったようです。
名古屋のコメダ珈琲や新宿の「喫茶らんぶる」でもミーティングしたのだとか。
主に40歳前後のアーティストたちが領域を超えてヴェネツィアの大舞台にトライしていく。
タイムラインを見ているとその高揚感が伝わってくるようです。
ただ、テーマである宇宙卵の壮大な物語が、どこか小さくまとまってしまっている感じを受けてもしまいました。
津波石の映像にせよ、風穴につながっているようなバスリコーダーの響きにせよ、もっと全体として時空を突き抜けるような広がりと深さがもててもよかったのではないかと感じるのです。
それぞれの要素はそれぞれに存在感があるのに、まとまってみるとテキストの壮大性につながらない。
突き抜けた広がりと深さ。
それを実現するためには、空間制約を超えた「延長の力」をもっと具備するための工夫、アイデアが必要だったのではないか。
東京、そしておそらくヴェネツィアでも、空間という器に対してその世界観設定が壮大に過ぎているような。
あるいは共作しているようでいて4人の世界観が各々、実は単独で完結しているのではないか。そんな疑問が浮かんできます。
不思議な心地良さがとっても魅力的な作品なのですが、どこか内向きで箱庭的な範囲に止まってしまっているアート。そんな印象を受けました。
さて、次回のビエンナーレ、日本代表はダムタイプに決まっています。
コロナで紆余曲折が予想されますが、今やモダンアートの老舗的大御所となってしまったグループがいよいよヴェネツィアに乗り込むわけですから、楽しみです。