秋期特別展 樂歴代 -桃山、令和 紡ぐ茶碗-
■2020年9月12日〜12月24日
■樂美術館
樂家の当主たちは一子相伝でその芸を受け継いでいくそうですが、肝心ともいえる釉薬については親から子への伝授をあえて行わないのだそうです。
釉の技はそれぞれの当主が独自に編み出していかなければなりません。
450年16代。
楽茶碗と一言で括れない各当主の個性と、受け継がれていく伝統。
見応えがある展覧会でした。
樂家16代、各当主の作品がもれなく1,2点くらい選ばれて展示されています。
初代長次郎の作ではポスターに写っている二彩獅子像(重文)と「つつみ柿」。
特に「つつみ柿」に目を奪われました。
透明感を消したカセ釉の肌がもつ質朴さと気品。
この赤樂茶碗は樂美術館の所蔵品ではなく、個人からの特別出品。
時季にあった洒落た選定です。
400年以上の歴史の中で時代の好みは当然に移り変わり、茶碗のテイストもかなり各時代で違いがあります。
例えば、すでに二代常慶になると器の形が大きく変化し、織部調のデフォルメがみられるようになります。
十代旦入は江戸後期19世紀前半に活躍した人ですが、箆削りを施して茶碗表面に動きのあるデザインを志向。
十一代慶入の頃になると江戸末期、化政度の洗練がスタイリッシュな美しさを醸すまでになります。
それでも全体としてみると樂家の茶碗としての伝統的な「かたち」が受け継がれている不思議。
一人の作家の内で作風の変化が大きくみられる例も紹介されています。
長次郎に次いで人気が高い三代道入の作、赤樂筒茶碗「銘 山人」と黒樂茶碗「銘 木下」。
前者は比較的若い頃につくられたとみられ、挑戦的な背の高いスタイルを採用。
後者は典型的な樂茶碗のかたちにたっぷりとした黒釉がかけられた名品。
個性と伝統のせめぎあい。
そしてその止揚がみられるような二つの茶碗。
時代の好みの反映。
特に楽家は千家十職の一つですから、当然に千家の趣向に大きく左右されるわけですが、その中で各当主はそれぞれに個性を発揮。
その「違いと流れ」が展覧会全体に変化と統一感をもたせているように感じます。
先代の十五代直入、当代吉左衛門の作ももちろん展示。
特に十五代の焼抜黒樂筒茶碗「銘 我歌月徘徊」(1990)は様々な色がパッチワークのように現れ、モダンアートのようにも見えます。
しかし重心のもたせ方というか、ものの持つ存在のあり様がやはり、樂、です。
こうして歴代を通観する企画ではないとあまりお目にかかれない当主たちの作品もみられる貴重な機会。
土曜日の昼間すぎに観賞しましたが数人程度の入場者。静かな館内。
コロナに付随した制約や無意味な手続きも特になく、快適な時間を過ごすことができました。