小堀遠州「在中庵棚」 (藤田美術館)

今年2022年4月1日、網島町の藤田美術館がリニューアルオープンしました。

そろそろ落ち着いた頃ではないかと推測し初めて訪問してみました。

fujita-museum.or.jp

 

「阿」「傳」「曜」と題された三つのコーナーで、再起動後、その最初の展示品を紹介しています。

「曜」は当然にこの美術館最大のお宝、国宝曜変天目茶碗を主役とした一室。
贅沢に空間がとられ、360度、じっくりこの器と向き合える場が用意されていました(展示は6月30日まで)。

とても光度が落とされた照明の中、まるで室内に浮かんでいるように展示されています。
曜変天目本来の「陰翳」、あるいは「黒」の美しさが引き出されています。

なお、全作品、写真撮影OK(フラッシュ不可)。

曜変天目茶碗

一方、「阿」や「傳」では、これも名物の重文「交趾大亀香合」他、藤田傳三郎、平太郎親子が蒐集、伝承してきた茶道具、墨蹟類の数々が展示されています。

いずれも藤田美術館を代表する名品ばかり。

ちょっと驚いたのは展示の冒頭に飾られた藤原佐理による「去夏帖」(展示は5月31日まで)。
初見でした。
あまり他所の美術館には貸し出していない作品ではないでしょうか。

2019年、奈良国立博物館が開催した「国宝殿堂 藤田美術館」展でも出品されていなかった古筆の傑作です。

「邸宅の修復のため木材を買いたいが、薄給なので困っている」という、なんとも切ない内容の手紙ですが、佐理独特の軽妙な書体が、その内容に反して典雅さを醸し出しています。

藤原佐理「去夏帖」

 

さて、今回、一番面白かった展示が、小堀遠州遺愛の肩衝茶入、銘「在中庵」です(展示は7月31日まで)。

1636(寛永13)年5月21日、品川新屋敷で開かれた三代将軍徳川家光御成の茶会で飾られたという記録も残る、名品中の名品。

茶入「在中庵」

もともと堺の寺、在中庵に住んでいた道休という人物が所持していたことから遠州がこの銘をつけました。
室町時代に作られたとみられる古瀬戸の一口。

その姿はたっぷりとした茄子型などとは違ってやや細長く、奇想な釉を纏っていながらも、どことなく飄々とした風情が感じられます。

遠州その人のキャラクターが滲んでいるようです。

「在中庵」附

重文「在中庵」には附がたくさんあります。

今回は仕覆、象牙製の蓋がそれぞれ6点、四方盆、それに遠州自筆の書状が展示されています。

書状には伏見奉行を務めていた遠州が、飢饉対策のために「在中庵」を質入れし、七千両の大金を工面したことが書かれています。
実際にお金のやり取りがなされたのかどうかはわかりませんが、いずれにせよ、唐物でもない茶入に、近世初期、途方もない価値がつけられていたことに驚きます。

 

このように、さまざまな由緒、エピソードがまとわりついている「在中庵」。

今回はこの茶入と附一式を収めるために小堀遠州が用いた専用棚が、そのすぐそばに展示されています。

在中庵棚

「在中庵棚」。

これが素晴らしいのです。

桑と黒柿から材をとって作られたという小ぶりの机のような形状。
そこに繊細な七宝文様による透かし彫が施されています。

製作された時期は不明なのですが、純中国風の文人道具とはやや趣を異にしていて、ここには近世、寛永文化の持つ気品がすでに現れているような気がします。

在中庵棚は、一時、三井家が所持していたそうですが、藤田コレクションに加わることでめでたく茶入・附とセットになって収まることになったのだそうです。

(「在中庵」については藤田美術館 前野絵里主任学芸員が、奈良博「藤田美術館」展図録で執筆している解説を参考にしています)

在中庵棚 透かし彫の一部

 

チケットブースが無く原則キャッシュレス決済。

ミュージアム・ショップらしいコーナーもありません。
代わりに喫茶スペース「あみじま茶屋」のカウンターにちょっとしたポストカードのセットや薄手の図録風冊子が置かれているだけ。

各作品の解説はすべてホームページ上に記載してあり、鑑賞者はそれを会場内で自身のスマホを使い閲覧するように促されます。
当然、作品目録を記載したペーパーも用意されていません。

徹底して「紙」を排除する方針とみられます。
大賛成です。

とはいえこれは、結構、トライアルな手法。

極端に暗く設定された照明をはじめ、リニューアル後の運営方針については賛否がわかれそうではあります。

しかし、新・藤田美術館が実質「毎日開館」の方針をとったことは文句なく喜ばしいことではないでしょうか。

年末年始を除き、月曜も休まず開いています。

以前が春と秋の限定された時期の開館でしたから、一層、その思い切り方に驚いてしまいます。

 

今回の展示品は30点ほど。

国宝9件、重要文化財53件を含む膨大な藤田美術館のコレクションからみればほんのわずかな数です。

これからどんどん展示が入れ替わり、お宝が開陳されていくのでしょう。

「月曜日」が楽しみな美術館です。