建築家 瀧 光夫の仕事 緑と建築の対話を求めて
■2020年3月23日〜12月12日
■京都工芸繊維大学 美術工芸資料館
2016年に80歳で亡くなった瀧光夫の足跡をたどる企画です。
オリジナルの設計図に加えて模型、写真パネルなどで構成されていますが、瀧の自筆原稿等も展示されていて、建築家の息遣いを感じることができるように工夫されていました。
吹田にある瀧の自宅「Tハウス」(1977)の図面をみるとほとんど「四角」が支配している印象。
これだけみてもあまり面白味は感じられません。
しかし近くに展示されている模型に目を移すと印象が一変します。
道路に面したファサードは中層階がヘコんだ3層の立体的な顔をもちます。
方形のシンプルな構造なのに表情はとても豊か。
長細い建物。
写真をみると2階部分に空中庭園のような緑があり、1階中庭地面から生えた大きな木が下から背を伸ばしてこれと共演。
建物の腹の中へ重層的に植物が組み込まれた独創的な住宅であることがわかります。
京大建築学科を卒業した後、瀧は大阪万博「お祭り広場」のプランに参加しています。
丹下健三に影響を受けたという瀧の建築は終始一貫してモダニズムのスタイルを堅持。
加えて、造園の世界にも大きな関心を寄せていたというこの人の仕事は主に「緑」に関連した建物の設計が中心となっていきます。
初期の代表作として紹介されている「愛知県緑化センター」(1975)は地形を活かしながらも純然としたモダニズム様式が貫かれています。
軽妙なリズムをもつピロティと、シンプルな平たい直方形で構成された姿からはル・コルビジュエや丹下の影響がはっきり読みれると思います。
コンリート打ちっぱなしのグレーな色調が支配する空間にたくさんの植物が緑をからめていく。
面白いのは建物が緑を全面的に支えているわけではなく、逆に緑が建築の添え物になっているわけでもないところ。
各々がそれ自体の存在を隠しもしないし大声で主張することもない。
不思議な調和の美がみられます。
植物園や緑化に関係した公的施設などに重要な仕事を残した瀧光夫ですが、ポストモダンの波は回避して、初期からのスタイルをほぼ守り抜いた建築家といえます。
華やかな商業建築などをほとんどてがけていないこともあってか、知名度が高い建築家とはいえません。
私もこの展覧会を観るまで知らない人でした。
しかし、ここで紹介された作品のいずれもが、その実力の確かさを示しているように感じます。
モダニズム建築がどんどん取り壊されていく昨今、70年代から80年代を中心に大規模な仕事を手掛けた瀧の建築もいつなくなるかわかったものではありません。
早く観ておかないと。
www.citybus.city.takatsuki.osaka.jp
瀧は高槻にある「森林観光センター」の建物群を設計。
この中に「樫田温泉」という温泉施設があることを展示情報から発見しました。
これれは早速湯浴みにいかなければならないと調べたところ、なんと2018年に大阪を襲った台風21号による被災から復旧がなされておらず、現在休業中とのこと。
同センターではバーベキュー等はできるようになっているとのことですが、なんとも残念。
本展では観賞後、アンケート用紙に感想を記入して受付に提出すると図録が無料でもらえます。
100ページを超える立派な冊子でカラー写真も豊富。
完成度の高いカタログです。
工繊大資料館は事前予約不要。
体温チェックと連絡先記入は求められます。
平日昼過ぎ頃、私の他に観客はいませんでした。
一人の実力派建築家の仕事を丸ごと回顧できる充実した企画展を快適に鑑賞することができました。