分離派建築会100年

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分離派建築会100年 建築は芸術か?

■2021年1月6日〜3月7日
京都国立近代美術館

 

観る展覧会というより、読む展覧会でした。

 

新橋のパナソニック留美術館で開催されていた分離派展。

京近美に巡回してきました。

お世辞にも広いとはいえない汐留に比べるとゆったりと企画展スペースを使い切った京都展の方があきらかにみやすいし、情報量も多い。

巡回展ではありますが、こちらがむしろ本命展です。

 

展示の大枠は汐留と共通していて、巨大な木のパネルを使って展示室を区切り、それぞれにテーマを設けて鑑賞者を誘導しています。

設計図面や模型など、それ自体としては美術的見栄えがさほど期待できない作品が並ぶので、美術館3階の広大な展示スペースにだらだら並べると収拾がつかない。

パーティションによって各展示エリアの独立性を確保した手法は奏功しているように感じました。

 

映像作品が特に充実しています。

パナソニック美術館でも流されていましたが、小さいモニター画面での展示はあくまでも参考映像の域だった印象。

しかし、京都展では大きな壁面スクリーンなどを活用し、各コーナーに展示を仕掛け、分離派ゆかりの映像をじっくり鑑賞できるように工夫がなされています。

 


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中でも"SYMPHONY OF VOLUMES"と題された映像作品が出色でした。

京大工学院工学研究科の長澤寛によるCGモデリングを戸村陽が映像化。

山田守「父の墓」、石本喜久治「composition」、瀧澤真弓「公館」、蔵田周忠「停車場案」、堀口捨己「船川氏の住宅」、森田慶一「公館」、矢田茂「ある土地の記念館」、山口文象「住宅」。

彫刻に強く影響を受けた分離派の最もピュアな建築の美を必要十分に再現。

手でこねられた模型がきっちりと3Dの図像を結びます。

建築家たちの語法が明快に浮き上がってきました。

画像に添えられた各建築家の言葉も、このいわば日本近代建築界の青春時代に生まれたグループの息吹を伝えていて、感銘を受けました。

 


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映像作品のタイトル"SYMPHONY OF VOLUMES"は山田守の言葉「VolumenのSymphonieとしての建築を創作したい」(1924)からとられています。

分離派発足当初からのメンバー山田守。

戦後に京都タワーと九段の武道館という、とんでもない巨大建築を残した人。

彼の分離派時代は、「父の墓」にみられるように有機的造形美がきわだちます。

分離派時代の代表作「東京中央電信局」のリズミカルなデザインの根底にも、どこか生命体の持つラインを思わせるような曲線がみられます。

しかし、この展覧会の終盤、「鶴見邸」では有機的曲線はまったく姿を消し、軽妙な直線で構成されたモダニズムの美観が優先されています。

分離派の終焉。

そしてモダニズムの曙光。

とても短い期間で終息した建築ムーヴメント。

山田守の変遷をみると「分離派」のたどった一つの典型が浮かび上がってきます。

 

山田守 千住郵便局電話事務室

たくさんのパネルを使い、豊富なテキストが掲示されています。

辰野金吾たちによる明治クラシック様式への反発から生み出された分離派メンバーの卒業記念図面。

実際に初めてカタチとなってその建物が示された大正期の平和記念東京博覧会。

そして関東大震災後、具体的に実用建築として出現する分離派の建物たち。

残念ながらその大半が失われてしまっていますが、京都展ではエントランス・スペースで現在も残る分離派時代の建築写真がゆったりと展示されています。

「多摩聖蹟記念館」「聖橋」「千住郵便局電話事務室」など、あらためて観るとその強い造形性に圧倒されます。

蔵田周忠 旧多摩聖蹟記念館

「東京中央電信局」のパラボラ部分を写しとったフロッタージュが展示されています

いわばとても珍しい近代建築の拓本。

1969年に取り壊されたのだそうです。

この5年前、京都タワー日本武道館が竣工しています。

一生涯の内に代表作とも言える建築の生死を体験した山田守。

ちょっと京都タワーをみる目が違ってくるかもしれません。

 

初日を鑑賞しましたが、とても閑散としていました。

京都国立近代美術館は1月初旬現在、コレクション展も含め事前予約等は必要ありません。

充実した図録も含め、見応えがある企画展だと思います。

 

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