MIHO MUSEUM コレクションの形成

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事前予約制による秋季特別展
MIHO MUSEUM コレクションの形成:日本絵画を中心に

■2020年9月1日〜12月13日

 

ミホミュージアム信楽の山奥にあるためアクセスが結構大変そうに思えますが、意外と公共交通機関でも簡単に到達することができます。

JRまたは京阪の石山駅前からこの美術館行きの帝産バスが、ほぼ1時間に一本くらいの割合で出ています。

石山駅前には本屋やカフェ付きのパン店などがありますからバス待ち時間の調整も可能。

乗車時間は1時間程度みておく必要があります。

でもこれに乗ってしまえば終点まで気楽なもの。

市街地を抜けるとすぐに田園風景。

途中から山道に入り渓流と木々が美しい。

www.miho.jp

 

 

美術館が近づくと山道が綺麗に整えられてきます。

まさに山全体が美術館といった趣き。

現在事前予約制をとっているため、オンラインチケットを持っていれば受付棟は無視してすぐ美術館本体へ向かうことが可能です。

500メートルほど距離がありますが電気自動車が受付棟と美術館本体間を結んでいて10分間隔くらいで運行しています。

今回は天気が良かったので歩いて向かいました。

春はさぞかし美しいと思われる枝垂れ桜の回廊を抜けるとこの美術館の名物、トンネルと橋のアプローチが待っています。

いわば、日常から非日常への橋渡し的な機能を担って鑑賞者を招く導線。

 

ミホ・ミュージアムの運営主体は宗教法人神慈秀明会

世界救世教から分かれた出自をもつ団体です。

このトンネルアプローチを体験してすぐ思い起こされるのは、熱海の世界救世教関連施設MOA美術館に設置されているトンネル・エスカレーターです。

色とりどりにライトアップされたトンネルの中を長い長いエスカレーターを使って上りきると熱海の景色を遠望できる別世界が開けます。

分派した以上、MOAを真似したわけではなく、地形を活かした結果だとは思いますが、強烈に日常から非日常の世界へ誘う特異なスタイルは両美術館に共通した特色。

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美術館の設計はI.M.ペイ(Ieoh Ming Pei 1917-2019)。

三角形を多用したガラス天井のモチーフはこの人お得意の建築語法。

館内ではペイがこの美術館設計に際しての苦労話を嬉々として語っている映像が流されていました。

 

全体の80%が地下にあるとは聞いていましたが、その建設プロセスは壮絶なものです。

一旦、山を大規模に削り出し。

美術館本体を建て終えた後、その土砂をまたもとに戻したのだそうです。

松の大木をはじめ植物も全て再生させたとか。

気が遠くなるようなプロジェクトです。

 

様々なステークホルダーの意向に配慮せざるを得ない公共博物館や企業運営型美術館などと違い、施主の思い次第で巨額の建設費を自在に投入し意のままにデザインできる新興宗教建築。

ここでも浮世離れした景観が現出しています。

見ようによってはトンデモ系施設といえなくもありません。

ただ、美術館に関係したエリアでは宗教性が丁寧に除かれているので特別な違和感を抱くことはないと思います。

古民家風を模した異形のエントランス。

これにはやや趣味に疑問を感じますが内部は桃色に美しく磨かれた石材が暖かく鑑賞者を包みます。

さらにその景色の素晴らしさ。

信楽の山々の穏やかな連なりがエントランスホールから一気に広がって視界に飛び込んできます。

劇的な空間演出。

これを観るだけでも価値があります。

遥か遠くに同じくI.M.ペイがこの宗教団体のために設計したカリヨン塔と、今はなき世界貿易センタービルの設計者、ミノル・ヤマサキによる神慈秀明会本殿の富士山を模したといわれる台形状の建築が垣間見れます。

 

今回の特別展はコレクションから選りすぐったいわば名品展。

神慈秀明会がその黎明期から現在に至るまで拡張してきた日本美術収集の軌跡を紹介。

絵画は主に江戸時代が中心です。

応挙、若冲蕭白など一通りビックネームが揃っています。

酒井抱一の「秋草図」は小ぶりの屏風。

有名な「夏秋草図屏風」(東京国立博物館)と似たモチーフですが、銀を背景とした東博の大屏風と違い、こちら金地。

四曲一隻に様々な秋草が写実と様式美を両立させて描かれています。

江戸琳派完成形の美が、コンパクトな作品ゆえにむしろ結晶しているように感じられました。

 

工芸では加賀前田家から伝わったといわれる耀変天目茶碗。

国宝の三天目に比べるとやや整いすぎている感じを受けますが、大変な美品であることは間違いありません。

 

それと「紫檀螺鈿宝相華鳳凰文平胡籙」。

正倉院宝物風の豪勢な名前に相応しく、鍍金と螺鈿の技を尽くした平安期の超絶技巧。儀仗用の武具(矢を入れておく筒)だそうです。目を奪われました。

 

その他、茶道具、仏教美術に関連した優品や中国書画なども充実。

総花的な印象を受けますが、下手に浮世絵などには手を出していないところにこの美術館特有の審美眼を感じます。

常設展である古代オリエント、中国美術のコーナーもかなりの規模。

ちょっと今回は疲れてしまったので流して観ただけですが、それでも美しさに酔っぱらってしまうほどの内容でした。

 

この美術館は時季を選ぶと思います。

今(11月中旬)はちょうど紅葉が映え、ベストシーズンだと思いました。

春は先にふれた枝垂れ桜。

これはすごい景観になることが想像できます。

しかし、炎天下や寒風の下では結構大変そうです。

そういう気候の時は電気自動車のお世話になってでも歩かない方が良いかもしれません。

天気にも大きく左右されるとみられます。

エントランスホールからの絶景は晴れた日がやはり一番でしょう。

もちろん雨と霧の渋い色調も良いとは思いますが...

人気と聞いていたので事前予約制とはいえ混雑害を気にしていましたが、全くの杞憂に終わりました。

平日の午後、閑散といってもいい鑑賞者数。

こんな良い季節なのにもったいないような、でも快適だからうれしいような。

次回は春、再訪したいと思います。

できれば事前予約制はこのまま継続してもらえると助かります。

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エントラスホールからの眺め 遠くにI.Mペイ設計のカリヨン塔