開館20周年特別展示 村田理如 蒐集の軌跡 I
■2020年11月21日〜2021年2月7日
■清水三年坂美術館
清水三年坂美術館の創設者、村田理如(1950-)館長が自らの蒐集遍歴を開陳するというユニークな企画です。
2000年の美術館開館から20周年を記念しての開催。
美術館2階のスペースが使用されています。
1階では普段通り漆工から刺繍絵画といった、幕末明治期における超絶技巧工芸品によるコレクション陳列が楽しめます。
化石から並河靖之の七宝まで、実に多彩な品々が置かれています。
一見、雑多に集められたようにもみえます。
でも次第に、ある一貫した趣向がみえてもくるようにも感じられてきます。
中でもエミール・ガレの作品群に村田コレクション形成に関するヒントが隠されているように思われました。
ガレへの趣向を因数分解することによって村田理如の蒐集精神を探ってみると、面白いことに気づくと思います。
まず彼のもっている「集める」という傾向です。
10数点のガレ作品が展示されています。
北澤美術館のような世界的ガレコレクションに比べればわずかな点数ですが、さほど長い時間をかけたわけでもない一個人の所有数として決して少なくはありません。
展示にはドームや、他のアール・ヌーヴォー作品はありません。
どうやらガレだけに焦点があわされているようです。
好きになったら集中して特定作家の品を集めるという彼の傾向がみてとれるかもしれません。
切手も展示されていました。
少年時代の切手収集は珍しいことではありませんが、「集める」ということそのものへの強い執着は、かなり早い時期から村田理如の中にあったと見られます。
ガレの花瓶に飛び交うカゲロウなどの虫たち。
これと呼応するのは若い頃に集められた多数の化石です。
中には蜻蛉など、はっきり形状を残している化石がみられます。
そのままガレのガラスに舞ってもおかしくないような古代の昆虫はいずれも工芸といってもいいくらいの美しさを備えています。
静物的に形が極まった昆虫や植物の姿を好む彼の趣向が伝わってきます。
光に照らされて千変万化に色彩がうつろうガレの器。
村田理如がかつて収集した万華鏡やバカラ製ミルフィオリのペーパーウェイト、自然銀などの煌びやかな鉱物コレクションには、こうしたガレの世界と共通する部分があります。
美しく凝固した昆虫や植物、みる角度によって多彩に表情をかえるミネラル。
これはまさに並河七宝に直結する要素でもあります。
幕末明治の超絶技巧工芸品に村田氏が出会ったのは1980年代の後半なのだそうです。
中年にさしかかろうという頃です。
切手、化石、鉱物。
最後にガレと遍歴し、ついにこの美術館コレクションの形成が始まったことになります。
実に一貫したテイストが示されています。
展示品によって自らの趣味に関するプロフィールを語り尽くす。
ちょっと恥ずかしいくらい率直な企画であり、村田理如の率直そうな人柄がにじみ出てくるようです。
しかし、幅広い村田コレクションの中で、一つ重要な分野が欠落していることにも気づきます。
陶芸です。
もちろん京薩摩のとてつもなく美しい作品群があるのは承知しているのですが、漆工、金工、七宝、彫刻、刺繍、根付印籠とみてくると、いかにも陶芸は限定的と感じられます。
例えば超絶技巧派工芸家の第一人者、初代宮川香山の作品はみあたりません。
田邊哲人が全て香山の作品を買い占めたというわけでもないでしょうに。
「集める」というこの人の趣向からすると、どうも不自然に陶芸分野は避けているようにも思えてしまうのです。
村田理如は周知の通り、村田製作所創業者の次男にあたる人物です。
この会社はセラミック、つまり陶器の技術で発展しました。
兄弟は社長職についています。
あまりにも家業と縁がある「陶器」の世界は、ある意味、趣味の世界に没入しすぎた村田氏には「近すぎた」のかもしれません。
これはあくまでも邪推にすぎませんけれども。
12月中旬現在、清水三年坂美術館は事前予約不要です。
連絡先記入や体温チェックなど煩わしいコロナ儀式を求められることはありません。
平日の昼下がり、入館者は数えるほど。
とても快適に鑑賞できました。