草津には数えきれないほど足を運んできましたが、この数年、宿はここに決めています。
三つの貸切風呂に特級の湯質を誇る源泉が溢れています。
泉水館は湯畑から西の河原方面に歩いて3,4分。
草津ホテルがある高台に向かう坂の手前の路地にややひっそりと門を構えています。
さほど広くない敷地。
部屋数も多くはありません。
しかしここは適温の自家源泉を惜しみなくかけ流す格調高い湯船を持った名宿。
数年前に泊まってからほぼ毎年のようにリピートしてきました。
白旗源泉や湯畑源泉に代表されるように、草津の湯はストロング系の熱湯が中心。
しかし、泉水館が誇る源泉「君子の湯」の温度は温泉分析表によると42.3℃。
いずれの浴槽にも気前よく大量の湯がかけ流されていますが、適温そのものです。
鮮度と温度がこれほど高いレベルで調和している浴槽は特に草津において、滅多にないと思います。
浴室が三つ。
いずれも貸切で利用します。
この浴室のしつらえがまた素晴らしいのです。
「千寿乃湯」と銘々された浴室は主屋の奥、やや高い位置にある独立した湯屋。
すべて木で造られた浴室にシンプルな方形の浴槽が一つ。
人通りが絶えない路地から見えてしまうためか、曇りガラスの窓で覆われていますが、採光は十分、内部は明るく軽快です。
湯口から滔々と注がれる源泉は、pH2.2、酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉。
でも、湯自体は澄み切っていて、エージングによる白濁はあまりみられません。
酸性なのに他の草津の源泉に比べてまろやかさがあります。
「君子乃湯」も主屋からちょっと離れたところに造られた湯屋。
こちらには二つの浴室が設けられています。
いずれも格調高い木造の湯屋造り。
「千寿乃湯」と違い、主屋の位置よりかなり低い場所にあります。
一人で独占するのが申し訳ないくらいの贅沢な浴場。
「草津十二湯 君子の湯」と書かれた板が古式を伝え、貫禄があります。
部屋数がさほど多くないので、先客とバッティングすることもあまりなく、特に深夜は気兼ねなく長湯もできると思います。
なお、三つの浴室はいずれも予約不要。
空いていればいつでも入浴できます。
先客の有無は館内にある表示灯でわかる仕組み。
内側からかける鍵が電気系統に繋がっているものとみられます。
君子の湯の脱衣所にこの宿の由来が記された板が掲示されています。
以下に引用してみます。
史跡 君子の湯由来
江戸時代、三代将軍家光の寛永年間に至って、天下安定し療養中心の草津温泉も亦、繁栄の機運となる。高原長右衛門等、村人相計り開運の神四国讃岐の金毘羅宮を勧請し来りて、西の河原入口西側高台に、社殿を構え百余段の石段を築き神霊を祭る。石段右側に源泉湧出旺盛一帯の地、高原長右衛門所有の地で、桐屋と称す豪荘なる料亭を営み、奥庭に純古風の泉水を設け、霊泉に「君子の湯」と命名し後に草津十二湯の一つに数えられた。最盛期は文化文政時代で、当時民衆の声で「草津にゆかば金毘羅様に願かけて、君子の湯で真まで暖まり泉水眺めて一杯飲めば此世の極楽」の語り草ありと。現在湯畑の西口より西の河原一帯を泉水区と呼ぶは桐屋の泉水に起因する。泉水館は大正の始め開業の折長野原町出身史家で画人萩原秋水氏の命名に依るものである。 泉水館主 敬白
「西の河原入口西側の高台」には今も金毘羅宮があります。
泉水館が位置しているのはその高台の下。
このあたりは街全体が窪地である草津の中でも急に斜面が落ち込む縁にあたります。
窪地の中心である湯畑よりも外縁にあるためか、湯脈が微妙に違っていて、それゆえに泉温が低くなっているのかもしれません。
近くに湧いている「綿の湯」源泉も、草津にしてはまろやか系なので共通点があります(綿の湯は草津ホテルの別館「綿の湯」で楽しむことができます)。
「綿の湯」ではレモン味の刺激系万代鉱源泉と、マイルドな綿の湯源泉の違いを同時に堪能できる浴槽があります。
(これは余談でした。)
泉水館は、由来書にあるように、歴史のある宿ですが近年リニューアルされたとみられ、部屋はお洒落な民芸モダン調に整えらています。
清潔感抜群。
快適です。
主屋1階の奥で供される食事は本格的な創作和食のコース。
一品一品、熱いものは熱いうちに皿が運ばれてきます。
ご夫婦とみられるお二人でほとんどの業務を切り盛りしているようなのですが、実に仕事ぶりが丁寧。
ご飯はテーブルの上に置かれたかまど風の土鍋で炊かれます。
とても一人では食べきれないところが申し訳ないのですが、美味この上ない白飯。満腹必至です。
朝食も品数豊富、かつ、美味しい。
湯質の点では「ての字屋」の岩風呂も適温の一級源泉だと思います。
雰囲気も含めて草津では屈指のクオリティで何度か泊まりましたが、泉水館に出会ってからはここが常宿になりました。
部屋数が限定されていてほとんど多客と顔を合わせることがありません。
浴室も全て貸切なのでコロナとは実質無縁の宿といえます。
GoToの時期はいつもよりお客さんが多いくらいでしたが、あたたかみのあるサービスも含めいつもと変わらないクオリティ。
老舗なのに敷居はまったく高くありません。
値段は一人だと2万円台の後半(平日オフシーズン)となりますが、十分、価格にあった宿だと思います。