「ダフニスとクロエ」モントゥー&LSO盤 (SACD)

 

 

モーリス・ラヴェル
 ■スペイン狂詩曲
 ■亡き王女のためのパヴァーヌ
 ■ダフニスとクロエ(全曲)

 ロンドン交響楽団
 ゴヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団
 指揮: ピエール・モントゥー
 (PRAGA  PRD/DSD 350 073  SACDハイブリッド)

 

洗練と新鮮。上品さと生々しさ。

これらの二項は、とても両立が難しい要素だと思います。
素材の生々しい鮮度を活かすとすれば、作業者は「何もしない」に越したことはありません。微妙な取捨選択や配合の技によって立ち上がる気品を得ようとすれば、素材の生命力をある程度犠牲にしなければならない。

モントゥーとLSOが生み出したこのディスクに聴くラヴェルは、この両立が困難な二つの要素が極めて高度なレベルで合成されています。

「ダフニスとクロエ」は周知の通り、モントゥーの指揮により1912年、シャトレ座で初演されました。初演者がその作品の再現者として最も相応しいわけではもちろんなく、1959年に録音されたこの演奏が1912年の演奏を再現しているわけもありません。
しかし、冒頭から最後まで、どこをとってもこれ以上ないくらいアーティキュレーションに説得力があり、漂う工芸品のようなラヴェルの音楽が生き生きと躍動し続けます。

60年以上前の録音なのに、2013年プラガが突然SACD化したデッカのソースはおそらくほとんど色褪せていない。

驚くのはLSOの自発性。1875年生まれのモントゥーは録音時(1959年8月)すでに80代半ば。細かいタクトによる指示はフィジカル的に限界がありそうなのですが、弦も管もまるでそれぞれが生き物のようにフレーズを絡ませ、色彩的にうごめく。特に管楽器群は各自がソリストのように自在な息遣いで明滅します。
それでいて、それぞれの楽器たちは全体として有機的に結合しダフニスの世界そのものを提示してくる。おそるべきパフォーマンスが聴かれると思います。

全体から細部まで隅々まで生命力が横溢しています。しかし、まったく野卑さや強引さが感じられない。ダフニスには例えば海賊の襲来シーンなど、音楽そのものがバーバリズムを意識したところがあるのですが、モントゥーの仕上げ方は作曲家の意図したところを汲み取りながらも決して下品で過激な効果を求めない。
だから、洗練された生命力という、二律背反ともいえる要素を兼備した音楽が立ち現れているのではないかと感じます。

併録されている2曲を含め、録音と共に解釈自体がまったく鮮度を失っていません。まさに永久不滅の名盤とはこのようなディスクのことをいうのではないかと思ったりもします。

 

プラガによるリマスタリングはどこまで丁寧なのかデータ表記がほとんどないのでよくわかりませんが、このSACDを聴く限り、響きの奥行きと空気感の再現において十分成功していると感じます。弦群の艶やかな触感、管楽器の空気を含んだかのような色彩。そして抜群の遠近感で浸透してくる合唱の響き。素晴らしい。

クリュイタンスやマルティノンのラヴェルは日本のメーカーが複数回SACD化を行っていると記憶します。しかし内容としてはおそらく彼らを上回るであろうモントゥー盤には冷たい。デッカに眠るソースの掘り起こしと徹底した洗い直しによるSACD化を今後、期待しています。