八木一夫「白い箱 OPEN OPEN」

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京都国立近代美術館の「2020年度第4回コレクション展」(2021年3月7日まで)を覗いてみました。

www.momak.go.jp

 

陶芸家、石黒宗麿が特集されています。

それに因んで、石黒と親交があった作家による館蔵工芸作品がいくつか展示されていました。

北大路魯山人、清水卯一、八木一夫の3人です。

その復古趣味が共通する魯山人と石黒は「うまいものの話」をする仲だったのだとか。

石黒の通い弟子でもあった清水卯一にも古典的造形センスにおいて師匠と通底した作風を感じます。

しかし、意外だったのは、走泥社の創設メンバーにして中心的作家であった八木一夫が石黒宗麿とつながっていたことです。

代表作「ザムザ氏の散歩」などにみられるように、八木は前衛を絵に描いたような人です。

同じ陶芸作家といっても、宋代にまで遡る陶磁器の伝統技法復古に執念をもやした石黒とはまさに正反対のイメージ。

でも、会場にあった解説板によると、八木は八瀬にあった石黒の窯を訪ねていて、その仕事に高い敬意を払っていたようなのです。

もともと八木一夫五条坂、やきものの町で育った人です。

オブジェ作品を造るセンスの、その根底には伝統陶芸世界の遺伝子がしっかり組み込まれていたのでしょう。

石黒同様、中国や朝鮮の陶磁に強く惹かれていたのだそうです。

石黒について、八木は、

「現代そのものにも生きている感覚や、瀟洒な好み、造りの確かさと柔軟性、そんなものに感心させられていた」

と語っています(これも京近美の解説板より)。

八瀬で独自の窯まで立ち上げ、ひたすら伝統技法の復元を追求していた石黒の姿勢に彼が素直に感銘をうけた様子が伝わってきます。

「白い箱 OPEN OPEN」は1971(昭和46)年の製作。

2012年に京近美の所蔵となった作品です。

 

シンプルな箱の表面にザラっとした白い釉薬

"OPEN"という文字が尖ったペン先でたくさん刻まれています。

その文字の群れから上方へ放たれた矢印の先にはほんのすこし開けらた箱の口。

この人らしいユーモアを感じさせるオブジェ陶器です。

よくみると、その釉のかけ具合には独特の品格があって、単なる前衛作品ではなく、しっかり技術に裏打ちされた造形であることがわかります。

瀟洒な好み、造りの確かさと柔軟性」。

八木が石黒宗麿の作風について語った彼自身の言葉が、そのままこの「白い箱 OPEN OPEN」にも適用できることに驚きました。

今回の展示で特に惹かれた作品です。


八木の作品ではこの他に、「白書」、「バーミヤン風の肖像」、「踊り」、「二口壺」「翔鳥花壺」などが展示されています。

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八木一夫 白い箱 OPEN OPEN