京都市京セラ美術館の南回廊1階は、主に、館蔵品の中から選ばれた作品を「コレクション展」として季節毎に披露するエリア。
企画展の開催を中心とした北回廊とほぼ相似形をなして向き合っています。
北回廊の中庭は「光の広間」と名付けられガラスの天井が張られていますが、南回廊の「天の中庭」は文字通りの露天。
リニューアル後、汚れが綺麗に落とされた壁面が柔らかい色調を帯びながら四方を取り囲んでいます。
そこに一点、鮮やかな朱色を主張するオブジェ。
清水九兵衞による「朱態」です。
リニューアル前はこの美術館の玄関横に置かれていた作品。
1988(昭和63)年に製作されました。
置き場所が変わっただけなのですが、印象がずいぶん違います。
この中庭はほぼ二つの色に支配されています。
一つは壁の淡いオフホワイト。
もう一つは空の色。
こんなに高い壁で囲まれた空を体験できる場所は、ひょっとしたら、入っことはありませんが、刑務所の中くらいかもしれないと思わせる特異な空間。
そこに「朱態」の極度に鮮やかな朱色が突然姿を現します。
玄関前に置かれていたときよりも周囲とのコントラストが際立ち、独特の存在感が放たれているように感じます。
しかし、その存在感は、以前よりもどこか峻厳さというか、孤高の趣きをまとっているようにもみえます。
玄関前に置かれていた時は、そのすぐ前にある平安神宮の大鳥居や応天門の朱との呼応が当然に意識されていたわけですが、「天の中庭」の「朱態」は呼びかけあう色がありません。
その分、オブジェとしての先鋭さと孤立した美しさが際立つように感じます
清水九兵衞による「朱」の作品は京都駅や京都文化博物館など、市内のあちこちで観ることができます。
作者自身、この街からインスピレーションを得たという朱色。
京都市美術館のすぐ近くにもあります。
京都市勧業館「みやこめっせ」には1996(平成8)年製作の「朱鳥舞」が置かれています。
朱の円柱が強く主張するオブジェ。
川崎清設計による勧業館と、二条通を挟んで共鳴する前川國男のロームシアター京都(旧京都会館)。
そのグレーが支配する世界の中で朱い色をくねらせながら放っています。
ただ、こちらはすぐ近くに平安神宮の朱が迫っていますから、孤立した美というより「呼応する美」の味わい。
リニューアルに際し富樫実のオブジェがバラバラにされそうになる等、色々問題もあった美術館。
でも「天の中庭」にうつされた「朱態」は泉下の作者がどう思うかは別にして、新しい孤高美を映じている点で、私は好きです。
南回廊は実質常設展が中心なので混雑することも少なく、「天の中庭」には誰もいないことがあります。
ほぼ無音。
周りは壁だけ。
ベンチに座って「朱態」と向き合っていると、時間の感覚まで変化します。
お気に入りの場所となりました。