静嘉堂文庫 二重橋前の「ギャラリー」

 

静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ
響きあう名宝 ―曜変・琳派のかがやき―

■2022年10月1日〜12月18日
静嘉堂@丸の内

 

第一印象は、「あれ、これだけ?」、でした。

 

世田谷岡本にある静嘉堂文庫美術館が、開館から30年とさほど長くない期間をもって公開施設としての役割を終了。
丸の内の明治生命館1階南西のコーナーに移転し、2022年10月、再始動しました。

その初回企画展をのぞいてみた次第です。

www.seikado.or.jp

 

エントランスから広がるホワイエは、往時の明治生命館内部を思わせる意匠を取り入れた豪華な雰囲気。

俄然、期待が高まるわけですが、ホワイエを囲んで4ヶ所に仕切られた展示空間自体は意外とこじんまりとした規模感。

感覚的にはホワイエの方が総展示面積よりも広いのではないか、と思えるほどです。

見た目、「二階」があるようにも感じられる施設。
ところが、展示室は一階のみ。
しかもそれほど天井が高くありません。

開館後初の企画ということもあり入場制限をかけているので、息苦しくなるような混雑はありませんでしたが、なにしろ「曜変天目」が披露されていますから、人口密度はそれなりに高く、余計に各室の狭さが際立って感じられます。

 

前期(10/1~11/6)、後期(11/10~12/18)の会期中、静嘉堂文庫が誇る国宝7件を全点展示するという、開館記念にふさわしい内容。

「付藻茄子」、建窯の「油滴天目」、伝馬遠「風水山水図」、俵屋宗達源氏物語関屋澪標図屏風」などなど。

実際、至宝の連続で圧倒されます。

 

しかし、見終わってみても、なぜか「美術館を楽しんだ」という充足感が乏しいのです。

 

静嘉堂文庫側もその規模からくる違和感を実は弁えているとみられます。
なぜならここは、正確には、「静嘉堂文庫美術館」そのものではありません。

あくまでも「静嘉堂@丸の内」。

本展を「新美術館開館記念」としてはいるものの、この場所をあえて「静嘉堂文庫美術館」と堂々と名乗ってはいないのです。

実際、収蔵品の保管・管理はこれからも世田谷で継続されるそうですから、丸の内はコレクションのほんの一部を展示する、いわば「出店」機能に特化した場所ということになります。

静嘉堂文庫は、新ギャラリーの愛称・通称として「@丸の内」としていますが、この表記は「実態」をきちんと反映しているともいえそうです。

 

 

なぜこんな変則的な移設に踏み切ったのか、その事情はわかりませんが、理由は多くの人が簡単に推測できると思います。

 

一つは、世田谷にある静嘉堂文庫の立地です。

この施設に行くには、成城学園前駅からバスに乗り、下車してからも結構な距離を歩くという、そのアクセスの悪さが最大のウィークポイントでした。

都内で暮らしていると、正直、「近そうで遠い」美術館、でした。

同じ三菱系の施設、「東洋文庫」も本駒込のちょっと不便な場所にありますが、静嘉堂ほどではありません。

収蔵品庫を世田谷に残したコンパクトな丸の内移設によって、三菱村の一画にがっちりハマりこみつつ、東京駅から徒歩5,6分、二重橋前駅からなら駅直結というアクセス至便性を一気に確保したことになります。

 


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この場所への移設に関するもう一つの推測理由は、隣にある三菱一号館美術館との関係性にあります。

2010年に開館した一号館美術館は、企画展の開催を専らとしていて、いわゆる「常設展」のエリアを持ちません。

しかもその企画傾向は現館長の趣味が濃厚に反映されているのか、フランス近代あたりを中心とした内容の展覧会が多い印象。

正直、どことなく甘ったるい企画が続いているのであまり足を運ばない美術館です。

堂々と「三菱」の名前を冠しているのに、岩﨑家が伝えた日本・東洋美術の名品が展示される機会は数えるほどしかなかったと記憶しています。

静嘉堂から運ばれる特級の名物茶道具や刀剣、書画墨蹟、障屏画の数々が隣の明治生命館に展示されることで、一種の「常設三菱名品コーナー」を一号館美術館はすぐ近くに手にしたともいえます。

今回の静嘉堂@丸の内の誕生によって、めでたく、かつて岩﨑彌之助と三菱の大番頭、荘田平五郎が目指していた丸の内の「三菱美術館」が、本来の形ではないにせよ、実現したとみれなくもありません。

静嘉堂@丸の内移設プロジェクトの背後には、あの「丸の内の大地主」の意向が働いているような気配を感じたりもします。

 

それはともかく、一号館美術館と静嘉堂文庫美術館は運営母体がそもそも違いますから、隣接するとはいえ簡単に本格的なコラボレーション企画を組めないかもしれません。

しかし、静嘉堂には岩﨑家が発注した明治近代の超大型屏風絵の傑作など、@丸の内では展示スペースをかなり消化してしまう名品も数多くあるはずです。

昨年6月、一号館美術館では久しぶりに「三菱の至宝」展を開催したばかりですが、より本格的に両館が合同で「大三菱展」なんてやってくれると嬉しいと思いました。