BRIAN ENO AMBIENT KYOTO
■2022年6月3日〜8月21日 (9月3日までの会期延長)
■京都中央信用金庫 旧厚生センター
ブライアン・イーノの日本における絶頂期はおそらく前世紀末の10〜20年間くらいでしょうか。
実際、この企画を観に来ているお客さんの中には、その頃に聴いていたのであろう50〜60歳代のシニア層が数多く見受けられます。
ただ、イーノはとても息長く、ジャンルを越えて愛されているアーティストでもあって、若年層、特に女性の観客もやや目立っていました。
烏丸七条にある中信所有の建物(旧不動貯金銀行京都七条支店)丸ごと一棟を使っての個展。
主催は虎ノ門にあるイヴェント会社のTOWと京都新聞が組成した実行委員会です。
多分ですが、この実行委員会はその準備室を室町の京都芸術センター内に置いていた時期があり、部屋の扉には「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO APRIL-JUNE 2022」と記されていました。
本来は4月頃にスタートする予定の企画だったのかもしれません。
諸々ままならない昨今のイヴェント状況ですから、とにかく無事開催されたことについて御同慶の至り、です。
丸ごと一棟といっても、それほど大きな建物ではありません。
昔、不動貯金銀行の営業室があったとみられる1階の高い天井を活かしたエリアに、本展のハイライトともいえる作品『77 Million Paintings』を配し、永遠に終わらない万華鏡世界をゆったりと現出させてはいます。
しかし、『Light Boxes』や『Face to Face』といった小ぶりのビジュアル・アートについては設置空間としていかにも狭く、特に『Light Boxes』に関しては、もう少しスペース的に工夫し、余裕を持った上で、作品数を増やすことができなかったのかなあとも思います。
結局、2時間近く滞在することになりました。
原因は3階に設営されたサウンド・インスタレーション『The Ship』です。
不思議なもので、延々と反復され「始まりも終わりもない」アートには、それとわかった途端、さほど鑑賞時間を長くかけることができません。
実質ほとんど永遠に違う画像が出現しては消えていく『77 Million Paintings』の鑑賞時間は、せいぜい20分程度だったと思います。
ところが『The Ship』は、典型的なイーノの作品とは違い、「始まりと終わり」がはっきりしています。
芒洋としたつかみどころのないサウンドから始まるものの、次第にテキストを含めてメロディアスな世界に遷移し、最後はありきたりともいえるポップス調で締めくくられてしまう。
だから、一つの「曲」を聴くような姿勢をどうしてもとらざるを得なくなります。
四方八方に設置された強力なスピーカーシステムから受ける音響的な刺激もあって、気がついたら1時間以上、極度に照明が落とされた空間に居続けることになりました。
ただ、このオーディオ・インスタレーションが格別に面白かったかというと、実はそれほどでもありません。
それなりの刺激はあるものの、音響的に、もっと、多方向から不意をつかれるような感覚を味わえそうなのに、なんとなく音の「出所」があらかじめわかってしまうような平板さが感じられます。
これにはおそらく、会場となった3階の天井の低さや柱による音響空間的な制約が関係しているのでしょう。
もちろん、あまりにも天井が高く空洞部分が広すぎると、逆に残響が余りすぎて音像がハレーションを起こすという弊害が出てきますけれど、中信旧厚生センター3階は、この作品の再現ついては、やや寸詰りの空間だったのではないかなあと推察しています。
本来は1階の旧営業室空間が理想だったかもしれませんが、それは今回の企画としてみた場合、ないものねだり、ではあると思います。
と、不満めいたことを書き連ねましたけど、京都駅至近の空間で非日常の快楽を味わえるまたとない企画です。
夏休みになると混雑してきそうなので、興味のある方は早めに体験された方が良いかもしれません。