現在京都市京セラ美術館で開催されている「モダン建築の京都」展(2021年9月25日〜12月26日)。
博物館や庁舎、大学といった大規模公共建築に加えて、個人住宅もいくつか取り上げられています。
その中のひとつ、日本画家木島櫻谷の旧邸が10月23日から11月28日にかけて公開されています(期間中の土日・祝日のみ)。
普段は閉鎖されていますが、春や秋に1ヶ月程度、櫻谷ゆかりの品々や作品を展示しつつ公開期間を設けています。
今回の公開は嵐山の福田美術館と嵯峨嵐山文華館で同時開催されている木島櫻谷展と連携した企画なのですが、ちょうど「モダン建築の京都」展ともタイミングがあった格好。
旧邸を管理運営している櫻谷財団も京都市京セラ美術館の企画展を意識していて、邸内には同展のチラシが掲示されています。
北野白梅町から徒歩7,8分、洛星高校を抜けたあたりにあります。
もうちょっと西北に進むと等持院という位置関係。
和館、洋館、画室の3棟によって構成されています。
1913(大正2)年に建てられ、1924(大正13)年まで増改築が続けられたのだそうです。
施工は西村平右衛門という大工。
館の仕様にはおそらく櫻谷の意向が細部に至るまで反映されているものとみられます。
入館受付がある和館からまず鑑賞。
木造2階建て。
障子やガラス窓からふんだんに光が取り入れられた軽快な住宅建築です。
大正2年、3棟の中で最初に建てられたのがこの和館。
このとき木島櫻谷はまだ37歳です。
各部屋の大きさはさほど広くはなく、廊下や階段などもやや狭く感じられます。
大日本画家の邸宅というイメージではありませんが、簡素に整えられた室内空間には住んでいた人たちの息遣いがそのまま伝わってくるような不思議な温かみがあります。
1階の北側奥には台所があり、当時使用されていたとみられる道具がそのまま置かれています。
同じようにアトリエ兼住居として公開されている岡崎の並河靖之邸にも台所がありますが、生活感の残り具合では木島櫻谷邸の方が濃密です。
さて「モダン建築の京都」展との関連でみると、櫻谷旧邸の見どころはなんといっても洋館。
和館の西に隣接して建てられています。
木骨煉瓦造の2階建て。
といっても煉瓦はクリーム色の外壁によって塗り覆われていて、全体の印象は装飾性が抑制されたシンプルさが支配しています。
1階が丸ごと収蔵庫になっていることもあり、洒落た洋風建築というより、「蔵」といった方がしっくりくるような外観。
しかし入り口から美しい曲線を描いて2階へ誘う階段には典雅な趣があり、大きな窓によって明るい空気に包まれる2階の様子は、和館とは別の柔和さが感じられます。
折り上げ天井に和洋折衷の典型が見られますが、ゴテゴテしていないので不思議と室内の印象はあっさりしています。
何点か櫻谷の作品などが部屋に展示されていましたが、一番面白かったのは襖に直接描かれた蕨。
足元近くにこっそり描かれていて、柔らかい室内の雰囲気に溶け込みつつ、画家の洒落っ気を伝えてくれています。
洋館からテニスコートなどを挟んで建っている画室は和風の平屋で、草木に囲まれているため外観はさほど大きく見えないのですが、中に入ってみるとかなり広々とした空間が出現します。
64畳の規模を誇るのだそうです。
天井は富岡製糸場でも採用されたというキングポストトラス工法で組まれていて、柱がない分、すっきりとした空間が生み出されています。
なお画室入り口近くに立つ唐楓の木は1932(昭和7)年、第13回帝展に出品された「角とぐ鹿」(京都市美術館蔵)で鹿がまさにツノを擦り付けている木として描かれたものなのだそうです(木の根元に解説書が添えられています)。
3棟とも2007(平成19)年、国の登録有形文化財になっています。
規模が大きいとはいえず、豪華さもありませんが、その分、画家とその家族たちの暮らした空気がそのまま伝わってくるようなインティメートな魅力がここにはあるように感じました。