渉成園の加藤泉と池上高志|ARTISTS'FAIR KYOTO 2023

 

 

昨年、清水寺で開催されていたARTISTS'FAIR KYOTOのアドバイザリー・ボード展。

今年2023年は京都駅近くの東本願寺飛地境内、「枳殻邸」とも呼ばれる渉成園が舞台です(2023年3月4日〜12日)。

 

artists-fair.kyoto

 

いつもは閉じられている、この庭園の下珠数屋町通に面した南門が開かれています。
渉成園は何度か訪れていますがこちら側から入るのは初めてです。
料金は2000円。
予約無しで入場できました(平日)。

なお、アーティスツフェア京都の展示を観る必要のないお客さんは一般料金(「庭園維持寄付金」 500円)で、通常の入口である間之町通側の門から入場できます。
展示会場となっている園内の各建物前にはスタッフの人たちがいて、一般客が立ち入らないように見張っていますが、仕組みを理解していない(あるいは知っていて開き直った)チケット無しの老害客が強引に闖入したりと、少し混乱もあったようです。
とはいえ、前回の主な会場となった清水寺成就院よりはスペース的にかなり余裕が取れていて、変化に富んだ展示空間を楽しむことができました。

 

渉成園 下珠数屋町通側の門

 

今回アドバイザリー・ボードのアーティストとして渉成園に出展しているメンバーはプロデューサーの椿昇を含めて14名。
新たに数名が加わっていて、中には やなぎみわ といった大物の名前もみられます。
一方、昨年登場していたビックネーム、塩田千春や宮島達男といった人たちは今回出展していませんでしたから、若干の入れ替えがあったようです。

渉成園内に点在する建物の中に入ることは、通常、できません。
今回は以下の6ヶ所が展示空間として特別に開放されています。

・大玄関(ヤノベケンジ、Yotta)
・蘆菴(1階が鬼頭健吾、2階が名和晃平)
・臨池亭(池田光弘、大庭大介、薄久保香、小谷元彦)
・滴翠軒(鶴田憲次、やなぎみわ)
・代笠席(池上高志)
・縮遠亭(田村友一郎、加藤泉)

(椿昇の作品展示がある傍花閣は外からの鑑賞のみ・3月4,5日はこれに加えて若手アーティスト特集が閬風亭内で開催されました)

大玄関の入口にはお馴染みヤノベケンジの『SHIP'S CAT(Mofumofu2022)』が丸まっていて、さっそくキャッチーな存在感を漂わせながら観客を迎えてくれます。
その奥には、今、東本願寺御影堂門前の広場に巨大コケシ『花子』を寝そべらせて世のインスタグラマーたちをザワつかせているYottaが置いた「小さい」『花子』。
BGMにスーパーでかかっていたりする「呼び込み君」が使われているのですが、気分を盛り上げているのか盛り下げているのかよくわからないシュールな効果をここでも生み出していました。

 


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さて、成就院のときも感じたのですが、和の空間にモダンアートを絡ませる手法は意外に難しいところがあるように思います。
今回も、ここに展示される必然性の点でちょっと疑問を感じる作品がなかったわけではありません。
他方、意外なコラボレーション効果を生じさせていたアーティストもいます。

 

加藤泉『無題』

 

加藤泉(1969-)による奇怪な木彫作品。
印月池に浮かぶ中島の頂に設えられた「縮遠亭(しゅくえんてい)」の中に、二体の朽ち果てた人形のようなものが置かれていました。
解説文によるとこの『無題』とされた作品は、2012年「六甲ミーツアート」で発表されたもの。
六甲山に生えていたメタセコイヤが使われているのだそうです。
六甲での展示のあと、舟越桂の作品なども所有する大阪の「創作料理 世沙弥」のコレクションに加えられ、店の庭に設置。
ここで約10年間、風雨にさらされた結果、現在のような凄まじい状態になったようです。
狭い縮遠亭の空間を逆手にとって、大きな彫像二体を室内いっぱいにドスンと置いた演出。
朽ちて大きく開いた穴には植物が挿されています。
印月池の深く緑色に淀んだ水を借景にもしていて、作品そのものと周囲の空間が呼応しています。
加藤泉は昨年、成就院展でも参加していましたが、やや縮小均衡的な展示にとどまっていたように感じていました。
今回は和建築の制約を、一旦払いのけた上で、さらに一体感を企てた独特の迫力があるように感じます。
今回、最も惹かれた作品です。

 

池上高志『What you can see is what you can't see』

もう一つ、特に惹かれた作品があります。
池上高志教授による『What you can see is what you can't see』(2023)。
大胆な仕掛けがありました。

使われている建物は園内の北側にちょっと孤立している「代笠席(たいりつせき)」という茶室です。
このこじんまりとした建物全体を池上は一つの大きなインスタレーションに仕上げてしまっています。
まばばたきをしながら視線を漂わせている大きな二つの眼が映されたモニター。
建物自体が顔をもつオバケのように見えてきます。
さらに屋根から水が流されていて、縁側には擬似雨が常に滴り落ちています。
観客はその縁側に腰掛けることができます。
眼の化け物と一体となって雨粒ごしに眺める枳殻邸の庭。
解説文によれば、この二つの「モニター眼」は、外の景色をVRで認識しているのだとか。

ということは....

「モニター眼」ともども他のお客さんにその姿を見られている私。
でもその二つの眼がどこを見ているのか、縁側に座している私には見えません。
可笑しさとゾッとするような恥ずかしさを同時に体験することができました。

 

 

渉成園 南門前の「枳殻(からたち)」