狩野永徳 聚光院花鳥図襖

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2020年11月29日に閉じられた東博渾身の特別展「桃山」。

後期会期末近くに訪れてみました。

前期に続き再訪です。

www.tnm.jp

 

この展覧会を象徴する狩野永徳「唐獅子図屏風」(宮内庁三の丸尚蔵館)は、後期(11月3日〜)からの展示です。

前期の「檜図屏風」から入れ替えられたわけですが、その圧倒的な大きさと迫力はまさに本展の顔となっていました。

 

永徳の唐獅子に並置されているのは狩野派のライバル長谷川等伯

前期に引き続き展示されている智積院楓図の横に、東博の切り札「松林図屏風」がお正月の常設展示役があるにもかかわらず後期から加勢しています。

永徳の巨大さに対してモノクロの深淵と色彩の絢爛さで拮抗。

大変贅沢な共演です。

 

前後期で大幅に作品が入れ替わっています。

その後期、最も見所として印象に残ったのは、狩野派三巨匠による花鳥画の競演。

中でも永徳による聚光院の花鳥図でした。

 

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この絵師得意の金碧障壁画とは違い、墨一色。

しかし、繊細かつ大胆に枝を伸ばす梅の木の図像からは、色彩はなくとも、いや、むしろ、色彩がないからこその高潔で柔軟な躍動の美が横溢します。

「唐獅子図屏風」がその巨大さと豪壮さで桃山を代表しているとすれば、聚光院の襖絵は形を受け継ぎながら、そこからはみ出るように溢れ出す生命力を表現している点において、こちらもまさに桃山芸術ならではの美意識といえるのではないでしょうか。

 

大徳寺塔頭の聚光院は三好長慶の菩提を弔うために建立された寺院です。

織豊政権下で本格的に花開いた永徳芸術ですが、この方丈を飾った襖絵では、権力者の威勢にさほど影響されていないように思えます。

その分、純粋に彼の技巧とセンスが表されているかのようにも感じます。

大規模な障壁画よりこの襖絵が永徳作品の中では最も好きです。


今回の展示では、あえて、聚光院襖絵の右隣に元信の「四季花鳥図」、左隣に探幽の「雪中梅竹遊禽図襖」を配置。

室町から桃山、そして江戸絵画の曙光へ。

狩野派がたどった画風の軌跡を一目瞭然に判別させようというアイデアです。

 

中国風の様式から離れつつもまだ古典的な構図のしきたりを維持している元信。

スタイリッシュに格調高さを演出する探幽。

その間にあって、永徳のそれは、奔放さと気品を兼備。

聚光院襖絵は桃山の美的エッセンスを凝縮したような存在感をもっています。

 

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聚光院

その他、後期展示では岩佐又兵衛洛中洛外図屏風」(舟木家本)、今日庵が蔵する長次郎の赤楽茶碗「銘 太郎坊」など、主役級の逸品が次々と登場。

前期同様、見所満載の特別展となりました。

金曜日、夜間に観賞。

この質と規模の展覧会であれば、通常、夜間展示でもかなりの観賞者がつめかけるはずで、混雑を懸念していました。

しかし良い方向に予測ははずれ、閑散とは言わないまでも会場はいたって静かなもの。じっくり観賞することができました。

コロナ第3波の中、在宅勤務を再徹底せざるをえなくなった企業が増えているのでしょう。

都心に17時以降わざわざ出向く人は少なかったのかもしれません。

 

なお、前期に訪れた際、違和感を覚えた展示品を囲む幅広い「立入禁止エリアライン」ですが、再訪した際には若干狭められ、見やすくなっていたように感じました。

コロナ対策は諸々大変ですが、過剰な制約は観賞を窮屈にさせます。

東博のようなブロックバスター展を企画できるミュージアムは今後も事前予約制を是非継続してもらい、混雑害を回避しつつ展示運営そのものには過度の縛りを行わないよう、わがままに期待したいと思います。

 

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