京都御所伝来の名宝|皇居三の丸尚蔵館

 

皇居三の丸尚蔵館開館記念展 皇室のみやびー受け継ぐ美ー
第3期 近世の御所を飾った品々

■2024年3月12日〜5月12日

 

三の丸尚蔵館リニューアルオープン記念展の第三弾です。

前回の第2期は明治以降、近代皇室にもたらされたコレクションが中心となっていました。
では今回は「近世に制作された作品」の特集かというと実は必ずしもそういう内容にはなっていません。

たしかに桃山から江戸時代後期あたりまでの作品が多いのですが、制作年代としてみた場合、平安時代や鎌倉、室町に属するお宝も展示されています。

近世までの御所あるいは宮家に伝わった品々、つまり東京奠都前に天皇・皇族の所有となり伝来した名宝を紹介する企画展です。

shozokan.nich.go.jp

 

明治宮殿を飾った華麗な近代工芸の数々も素晴らしい作品ばかりでしたけれど、近世に制作され御所を飾った品々も華麗さにおいて全く引けをとっていません。

非常に装飾的なのに不思議な気品を同時にまとっているその美観には独特の魅力を感じます。

明治近代の超絶技巧工芸と比べてみると、技術的には全く遜色がないのにあえて技巧を主役に置かず全体の古典的調和美を重んじているところに近世らしさを感じます。

中には初公開品もあり、その保存状態の良さにも驚くことになりました。

 

蔦細道蒔絵文台

 

「蔦細道蒔絵文台・硯箱」は桃山時代制作の工芸品。
京都御所伝来の品として「御在来」よばれるものの一つです。
伊勢物語』の情景を写した蒔絵。
人物は描かずさまざまなモチーフだけで物語を暗示しています。

余白がほとんどないほどに華麗な金銀の装飾が施されているにも関わらず、全く過剰さが感じられません。
蔦の葉をシンプルにデザイン化し統一することでリズムを生み出していることがクラシカルな格調高さにつながっているのでしょう。
圧倒的な名品です。

 

菊花流水蒔絵歌書箪笥」(一部拡大)

 

江戸期制作の「菊花流水蒔絵歌書箪笥」も非常に豪華な作品で、細かい流水紋の曲線美などにみる技巧的レベルの高さにも驚く工芸です。
ただその雰囲気は不思議とゴージャスさよりもシックさが優勢と感じられます。
モチーフを絞りつつ菊と流水を主体としてデザイン化が図られているので凝った細部と全体としてのまとまりが絶妙なバランスで釣り合っています。

 

龍笛 銘「春鶯囀」

 

近世までの御所に伝来したという意味で象徴的な逸品も展示されていました。

龍笛 銘「春鶯囀(しゅんのうでん)」は平安時代から宮中に伝わる横笛です。
今でも吹けば音が出そうなくらい良く保存された名器とみられるのですが、この笛を守ってきた「筒」も素晴らしい工芸品でした。

笛筒には木挽町狩野家六代、栄川院典信(1730-1790)の筆による梅枝が黒漆を背景に描かれています。
徳川家治の寵愛を受けたというこの幕府奥絵師がわざわざ小さい笛のいわば「カバー」に描いているわけです。
江戸中期における御所と江戸狩野の関係が作品から滲んできます。

 

笛筒(梅枝の絵は狩野典信筆)

 

木挽町狩野家といえば二代狩野常信(1636-1713)によって描かれた奇跡的な作品が京都御所には伝来しています。

「糸桜図簾屏風」がそれです。

六曲一双の大画面に枝垂れ桜が描かれ、大きくくり抜かれた中央部分には繊細に簾が嵌め込まれています。

常信はその簾の上にも桜を緻密に描くことで、まるで屏風越しに桜を透かしみるような効果を生んでいるのです。

この作品の凄いところは、極めて繊細に描かれた簾上の桜が全く劣化することなくそのまま彩色も鮮やかに残っているところでしょう。
最新の照明と反射を抑えたガラス展示ケースの中で常信の妙技が映えていました。

もちろん一定の修復はされたのかもしれませんが、江戸時代初期の屏風とは思えないくらい美しい姿を保っています。

 

狩野常信「糸桜図簾屏風」(右隻)

狩野常信「糸桜図簾屏風」(左隻)

狩野常信「糸桜図簾屏風」(部分)

 

一方、山楽にはじまる京狩野は山雪、永納の後はあまりパッとしない時代が続きます。

ようやく江戸時代後期、「九代」を称した永岳(1790-1867)が出現し幕末頃まで活躍しました。

御所内の障屏画をはじめ宮中の仕事を多くこなしたこの絵師による色鮮やかな衝立画「散手貴徳図衝立」が紹介されています。

この作品も全く色褪せなどがみられず、まるでつい最近描かれたようなヴィヴィッドさが保たれていました。

 

狩野永岳「散手貴徳衝立」(部分)

狩野永岳「散手貴徳衝立」(部分)

 

「喪乱帖」や金沢本「万葉集」とともに2022年11月に国宝指定されたばかりの藤原定家筆による「更級日記」が公開されています。

東園基量(1653-1710)による日記「基量卿記」に1685(貞享2)年、後西天皇(1638-1685)の御遺物としてこの本が記録されていることから江戸時代初期には御所に伝えられていたことが確実とされています。

とても小さい作品ではあるものの、今回は独立型展示ケースに入れられていますから定家晩年のユニークな書体をじっくり堪能することができると思います。

 

藤原定家筆「更級日記

藤原行成「雲紙本和漢朗詠集」巻上(部分)

 

この展覧会自体が「第3期」にあたるのですが、困ったことに前期(3月12日〜4月7日)と後期(4月9日〜5月12日)でさらに作品がかなり入れ替わります。

更級日記」と伝藤原行成(源兼行筆と推定)「雲紙本和漢朗詠集」巻上は一応通期展示とされているものの開示される場所が変更されます。

後期には円山応挙「源氏四季図屏風」や海北友松「浜松図屏風」といったまさに近世名画のハイライト級作品が登場しますから、どうやらまた東御苑まで足を運ぶことになりそうです。

日時指定予約制をとっています(当日でも時間帯によって空があれば入場可)。
国宝で埋め尽くした第1期に比べると比較的余裕はあるようです。

なお三の丸尚蔵館は「原則撮影禁止」としているものの、本展(前期)では大半の作品が撮影OKとなっていました。

 

狩野永徳源氏物語図屏風」(部分)