永遠の都ローマ展
■2023年9月16日~12月10日
■東京都美術館
いかにも都美らしいブロックバスター系の企画なので、鑑賞するか否かちょっと迷っていたのですが、日時指定不要の平日にぶらりと覗いてみたところ、予想よりも混雑していない雰囲気(土日・祝日は事前予約優先制です)。
実際、さほどストレスを感じることなく鑑賞することができました。
当然にお目当ては「カピトリーノのヴィーナス」です。
(なお、意外なことに写真撮影はごく一部を除き不可となっています)
東京はローマと姉妹都市の関係にあります。
ちなみに京都はフィレンツェ、大阪はミラノです。
なんとなくそれっぽい組み合わせと感じますが、この「姉妹都市」という曖昧な関係はいつどうやって何を基準に決まっているのかなどなど、いまだに私にはよく理解できていません。
それはともかく、都美による基本情報によれば、本展は、姉妹都市である東京のためにローマが一肌脱いだ、ということなのでしょう。
「カピトリーノのヴィーナス」が館外に出張するのは、今回を含めてわずか3回を数えるだけなのだそうです。
主催側が宣伝文句に使っている「門外不出」という言い方は不正確ではあるものの、非常に貴重な鑑賞機会であることに違いはありません。
本展は福岡市美術館にも巡回しますが「ヴィーナス」の登場は上野のみです。
「姉妹都市」関係の皆さんに感謝しています。
まるまる一室がこの美神のためにあてがわれていて、360度、全方向からたっぷり鑑賞することができました。
いやらしい眼で観ていると思われると不本意なのですが、この像はその後ろ姿、特にヒップがとても美しいのです。
極端にキリッと引き締まった感じは受けません。
でも、逆にルーベンス風に豊満さを強調しているわけでもありません。
「普通」に美しいのです。
まさに、眼福でした(結局なんとなくいやらしい表現になってしまいました)。
さて、本展はこの「ヴィーナス」に代表されるように、カピトリーノ美術館(Musei Capitolini)のコレクションを中核として構成されています。
しかし、もう一館、大きな役割を担っているミュージアムがあります。
ローマ文明博物館(Museo della Civiltà Romana)です。
ここの特徴は、古代ローマ世界を複製や模型を使って再現することを主たる展示目的としていることで、精巧な帝政期ローマの都市模型などで知られています。
ただ、諸々とトラブルが発生している施設らしく、現在は長期休館中という状況にあります。
今回の「ローマ展」では、この博物館が所蔵する超巨大な「レプリカ」が来日しているのですが、こんな力技的な企画が成立した背景には、ローマ文明博物館が閉館を余儀なくされているという事情が関係しているのかもしれません。
休眠中のローマ文明博物館から運ばれた巨大レプリカとは、他ならない、「コンスタンティヌス帝の巨像」です。
1930年に石膏によって写された皇帝の頭部。
高さが177センチもあります。
製作時期はまさにムッソリーニ時代ですから、国威発揚の機運と何らかの関係があったのかもしれません。
レプリカの元となっているブロンズ像は、4世紀頃の製作と推定され、カピトリーノ美術館が収蔵しています。
よく知られているように、カピトリーノにはもう一つ、コンスタンティヌス帝像とされる有名な大理石の彫像がありますが、これとは当然に別の遺産です。
教科書などに掲載されるコンスタンティヌス帝の写真はおそらく「大理石像」の方が一般的で、ブロンズ像はそれに比べるとややマイナーかもしれません。
カピトリーノ美術館が所有するこのブロンズ頭像の現物は、1471年、教皇シクストゥス4世によってローマ市民に寄贈された4つの古代彫刻の内の一つとして知られています。
つまり「世界最古の美術館」とされるカピトリーノの、記念すべき最初のコレクションでもあるわけです。
今回の来日展示では、頭部に加えて、球体を持つ左手や左足首など、巨像の一部を構成していたパーツのレプリカも合わせて陳列されています。
圧巻の大きさです。
これらのパーツから、コンスタンティヌス大帝の像は10メートルを超えていたのであろうと推定されています。
15メートル近くある奈良東大寺の盧舎那仏(大仏)には及びませんが、鎌倉大仏には匹敵する高さです。
青銅の彫像としてみた場合、かつての大帝像は、まさに「大仏」のような存在感を示していたのではないかと勝手に想像してしまいました。
螺髪のように見えなくもないヘアースタイルに宝玉のような球体を持って座るポーズ。
これは「ローマ大仏」なのではないか、ともみえてくるわけです。
「レプリカ」ときくと、なんとなく興趣が削がれる感じがすると思いますが、実際に原寸大のパーツ像を目の当たりにすると、妄想がどんどん膨らみ、「コンスタンティヌス大仏」に手を合わせるローマ市民の姿が目に浮かぶようです。
313年、ミラノ勅令によって帝国内でキリスト教を公認したこの皇帝の巨像は、ギリシア以来の神々に慣れ親しんできたローマの人々にとって、わかりやすくキリスト教の守護者としてのキャラクターを伝達する機能を備えていたと想像することができるかもしれません。
とすれば、宗教は全く違いますが、まさに大仏的機能をもっていたともいえそうです。
しかも興味深いことに、このコンスタンティヌス像を、実際復元してみようというプロジェクトが確認できます。
正確には今回展示されているブロンズ像ではなく、大理石像の方なのですが、ファクタム財団の企画、プラダとカピトリーノ美術館の協力によって、2022年から今年にかけ、大帝の巨像を復元するプロジェクトが実施されています。
3Dモデリングの技術が駆使され、残されたパーツから推定された巨像が実際に再構成されています。
大理石像からの復元なので白っぽい外観ではありますが、これをブロンズに置き換えると、まさに大仏です。
そのあまりの大きさゆえに、完全体としては残らなかったコンスタンティヌス帝の巨像ですが、頭部をはじめ、パーツ状態になってもなお遺物として継承されていることからも、その神聖性が伝わってきます。
なお、偶然ですが、現在、京都国立博物館で開催されている「東福寺」展では、この寺にかつてあった大仏の巨大な「手」が陳列されています。
時代も場所も違いますが、ともに「聖なるパーツ」と言えるかもしれません。