八代清水六兵衞展|中信美術館

 

清水六兵衞 CERAMIC SIGHT

■2024年2月7日〜3月15日
■中信美術館

 

八代清水六兵衞(1954-)の特集企画展です。

規模は大きくありませんが、作家自身が選んだ初期の作品から昨年2023年製作の最新作まで全46点展示されていますから、一種の回顧展といっても良い充実した内容になっていると思います(無料)。

www.chushin.co.jp

 

八代清水六兵衞は1954(昭和29)年4月、五条坂に生まれています。
今年の4月でちょうど生誕70年を迎えることになります。

今や名実ともに現代陶芸界における大家の一人といって良い存在でしょう。

七代清水六兵衞=清水九兵衞(1922-2006)の長男として生まれたときの名は「清水正洋」。
その後高校時代に「柾博」と改名し長くこの名前で作品を発表。
2000年に八代六兵衞を襲名しています。

清水家は襲名すると戸籍名まで変えてしまうからでしょうか、本展では清水柾博時代の作品も全て清水六兵衞作として区別されることなく展示されています。

 

会場の2階に1980年代前期に製作された作品がいくつか展示されていました。

当代清水六兵衞の作風が確立される前の初期作品からは、どこか走泥社風の諧謔さのような味わいが感じられる一方、かたちそのものに対する静謐な向き合い方がすでに現れているようにも思えます。

 

 

八代清水六兵衞の初期作品群

 

父の七代も陶芸とはあまり縁のない教育を受けながら六代の養嗣子となってからたちまちその才能を発揮した人ですが、八代もかなりユニークな経歴をもっていることで知られています。

1979年に早稲田大の理工学部建築学科を卒業しています。

名門の建築スクールですからそのまま建築家となることも十分可能だったにも関わらず、父の仕事を手伝う中で陶芸の世界に入ることになったようです。

とはいえ父のもとで徒弟的に陶芸を学んだわけではなく、轆轤の技術を京都府立陶工職業訓練校(現京都府立陶工高等技術専門校)、釉薬技法を京都市工業試験場(現京都市産業技術研究所)で専門的に身につけています。

そして1983年、早大卒業のわずか4年後には第21回朝日陶芸展でグランプリを受賞してしまうのです。

 

八代清水六兵衞 「Triangular Pyramid A」(一番右の作品)

 

本展では1982年に製作された「Triangular Pyramid A」という作品を観ることができますが、既に幾何学的造形美と陶芸らしい質感の融合を目指している作風を感じとることができます。

襲名前、柾博時代を代表する大型作品である「Relation 96-B」(1996)が1階スペースの中央に展示されていました。

オパールラスター釉のコーティングによって独特の光沢を帯びたパーツ群で構成されたその姿は、とてもシンプルな形状が組み合わされているのに、どこか有機的な生命力を感じさせもする魅力的な作品です。

 

八代清水六兵衞「Relation 96-B」

 

父の七代は襲名前、一旦「清水九兵衞」に変身し完全に陶芸の世界から離れてしまった人物です。

ところが先代の急逝を受けて「六兵衞」を襲名してからは、「おしゃべりだ」と嫌っていた素材としての陶土に再び向き合い、茶碗なども製作しました。

他方八代は襲名後もその作風や「タタラ技法」と呼ばれる陶土焼成の際に生まれる「へたれ」を活かした造形手法を大きく変えてはいないようです。

ただ90年代に見られた大型作品とは違い、近年の作品には「シャフトB」に代表されるように、計算された幾何学的形状でありながら複雑な陰影を重んじた独特の造形美が表現されています。

 

八代清水六兵衞「シャフトB」

 

この人の作品はとにかくどれもかっこいいのです。

ある意味、陶土で小さな建築を作ってしまっているようなところがあって、中には「相対形象05-I」のようにほとんど建築のイメージ模型のような作品も確認できます。

白や黒といったモノトーンが好んで採用されますから理知的な造形と相まって非常にモダンな印象をまず受けます。

 

八代清水六兵衞「相対形象05-I」

 

ただ一方で、冷徹一辺倒のモダニズムデザインというイメージにも繋がらない不思議な温かみをも感じることができます。

彼の作品にはクリシェ的な言い方にはなりますけれどもやはり「やきもの」としての存在感が十全に意識されているのでしょう。

数学的といっても良いほど明瞭に造形された陶土板にあえてスリットを入れ、焼成の過程で生じる「歪み」を取り込むその技法は、人工的でありながら100%完全に統御できない美を巧みに取り入れているともいえます。

 

八代清水六兵衞「記憶の塔2022-A」

 

本展に合わせて製作されたパンフレットの中で清水六兵衞は「最近は内在する空間に焦点を当てた作品を作っています」とコメントしています。

「記憶の塔」や「Space Sensor A」といった最近作をみると作家自身の言葉を裏付けるように、機知に富んだ外形とともに豊かな内部が生み出す陰影美を感じ取ることができます。

「内在する空間」を持つということは、「器」にもなり得るということです。

八代はいわゆる典型的な伝統工芸としてのやきものというよりオブジェの人という印象を受けますけれど、いくつか「花器」と題された工芸作品も確認できます。

70歳代を迎えいよいよ円熟味を増すであろうこの作家が、「内在する空間」を意識する中で「伝統工芸としてのやきもの」とどう向き合っていくのか、あるいはさらに新しい境地を開拓していくのか、非常に楽しみになってくる展覧会でもありました。

なお本展は作家の意向により全作品、写真撮影OKとなっています。

 

八代清水六兵衞「Space Sensor B」「Space Sensor A」

八代清水六兵衞「CERAMIC CIRCLE 2023」

八代清水六兵衞「黒泑陶姿 25-B」