ハタインターナショナルによるモネ100%展

 

モネ 連作の情景

■2024年2月10〜5月6日
■大阪中之島美術館

 

東京展(上野の森美術館)を終えモネ展が大阪に巡回してきました。

うんざりするような入場前行列ができていた上野に対し、キャパに余裕がある中之島は比較的ゆったりとしていて大きなストレスなく鑑賞することができました。

ただ入場者が途切れることはありません。
大盛況です(平日昼間の状態)。

www.ktv.jp

 

あまり例がないことだと思いますが、今回のモネ展は東京より大阪の展示件数の方が若干多い構成となっています。

カタログ上の総展示件数75点の内、東京展のみの展示が6件(No.5、13、24、52、61、72)なのに対し、大阪展のみは12件(4、15、22、36、46、49、55、68、69、70、71、74)あります。

そもそも巡回展における展示作品と件数は全会場原則同一であることが望ましいと思います。
単に数が多ければ良いということでもありません。

ただ今回の大阪限定展示品の中にはとても珍しい傑作もありますから、モネフェチ度100%の方なら東京展のおかわり鑑賞としてご覧になっても十分楽しめる内容かと思います。

 

モネ「睡蓮の池」(ハッソ・プラットナー・コレクション)

 

全点、クロード・モネ(Claude Monet 1840-1926)が描いた油彩画で占められています。

100%、混じり気なしのモネ展です。

非常に人気の高い画家の大特集ではあるのですが、実はかなり異様な展覧会ともいえます。

日本国内からの出展を含め、なんと12カ国、50を超えるミュージアムやギャラリー等から作品が提供されています。

出展している施設団体の数が最も多い国は当然に日本なのですが、意外にも次に多い国はフランスではなくオランダです。

デン・ハーグ美術館をはじめ、ゴッホでお馴染みのクレラー=ミュラー美術館など6館が参加していて、全体の監修自体もデン・ハーグのベンノ・テンペル館長が担当しています。

これはおそらく企画を担った企業がハタインターナショナルだからなのでしょう。

この展覧会プロデュース企業の得意技はなんといってもフェルメールレンブラントゴッホをはじめとするオランダ絵画です。

オランダ美術界隈の人脈を活かしつつ日米欧各国に網を広げ、有名な大作から日本初公開となる作品までかき集めてモネだらけの展覧会を実現させています。

どういったアート企画が日本人にウケるのか、採算性も含めて相変わらずよく心得ている企業です。

一般料金が東京は2800円、大阪は2500円。
調べたわけではありませんが、モネ展としては史上最高額かもしれません。

 

モネ「睡蓮」(ロサンゼルス・カウンティ美術館)

 

同一あるいは似通ったモチーフや風景をもつ作品が意図的にグルーピングされています。

本展のタイトルである「連作の情景」が強く意識された構成です。

ただ面白いのは、そうしたグルーピングが同時にほぼ制作年順にも沿ってしまうところでしょうか。
モネという人がもっていた、一つの景物に執着しては移ろっていく傾向がよく表されています。

 

さて、本展最大の見ものは印象派的な作風が確立する前に描かれた、シュテーデル美術館が蔵する初期の代表作「昼食」でしょう。
縦が約2.3、横が1.5メートルもある大作です。

写真図版などではよくわからないのですけれど、実物をみるとモネはかなりエキセントリックに人物を描写しているように感じられます。

特に画面の左、窓に寄りかかるように立っている女性がみせるなんともアンニュイな表情が不気味です。
無邪気にスプーンを手にする子供(モネの息子ジャン)と母親(カミーユ)が明るい色彩で包まれているのに対し、この窓辺の女性はほとんど黒一色の装束で描かれていて、まるで光を吸収してしまうくらい強いインパクトで実質、画面の半分を支配しています。

彼女は訪問客のようなのですが、どういう底意をもってモネの家族たちを見ているのか謎であると同時に、なぜモネはこの女性をこんな風に描いたのか、画家の意図自体に不穏さすら感じます。

どうやらその答えは画面奥で扉に隠れようとする家政婦さんだけが知っているようでもあります。

ただ、自信作としてサロンに出展した本作が落選したことが影響したのでしょうか。
以後、「昼食」にみられるような鋭くキャラクターを抉る人物画は描かれなくなり、直接的な「黒」からも遠ざかることになります。

この企画展は一応、1874年の第1回印象派展開催から150年を記念して開かれています。

結果的にモネを印象派へと向かわせた、ある意味「踏切台」となった名作です。

artsandculture.google.com

 

モネの画業にみられる連作性を意識しているとはいっても、その方面の代表作である「ルーアン大聖堂」シリーズは一点も紹介されていません。

またジヴェルニー時代を代表する「積みわら」は3点ほど集められてはいますが、このモチーフによる色彩的なバリエーションの面白さが楽しめるほどの優品は残念ながらラインナップされてはいませんでした。

その代わり、3点の「国会議事堂とチャリング・クロス橋」(ポーラ美術館、吉野石膏コレクション、リヨン美術館)、同じく3点の「ウォータールー橋」(ヒュー・レイン・ギャラリー、ワシントン・ナショナル・ギャラリー)がまとめて展示されています。

いずれもそれほど大型の作品ではありませんけれどもニュアンスの塊のようなロンドンの空気、光と色の粒子がとらえられた傑作です。

なおウォータールー橋の3作については撮影OKとなっていました。

 

モネ「ウォータールー橋、曇り」(ヒュー・レイン・ギャラリー、ダブリン)

 

睡蓮などの花を特集した展示空間で締めくくられています。

このコーナーも2点を除きカメラOKとなっていました。

アーティゾン美術館の「睡蓮」等、お馴染みの作品がある一方、ドゥルー美術歴史博物館が蔵する「藤の習作」といった非常に珍しい逸品も展示されています。

残念ながら写真撮影NGとなっていましたが和泉市久保惣記念美術館ご自慢の傑作「睡蓮」(1907)も登場しています。

この作品にみられる構図はモネの睡蓮の中でも最もポピュラーなものの一つですが、久保惣のそれは色彩や形態が他作よりも単純化されていて、もう一歩で表現主義抽象絵画の域に達するほどの大胆さがみられます。

久保惣の「睡蓮」はなぜか3月24日までの限定公開です。
和泉まで行けば常設コレクション展でまた観られるとはいえ、こうしてアーティゾンの「睡蓮」と並置されるとこの作品のユニークさが際立つようにも感じられます。

 

www.ikm-art.jp

 

なお、海外画家の企画展にしては珍しいのですが、久保惣の「睡蓮」の他にもう一枚、福島県立美術館の「ジヴェルニーの草原」も期間限定展示で3月10日までの公開。
逆に3月26日からは埼玉県立近代美術館の「ジヴェルニーの積みわら、夕日」が登場します。

たくさんのミュージアムから作品を取り寄せている関係からかスケジュール調整に苦労しているようです。

この微調整的な展示替えを意識するほどのことはないとは思いますが、これから春めいてくると来客数もどんどん増えることが予想されますから、3月前半あたりに鑑賞を済ませておいた方が良いかもしれません。

 

モネ「藤の習作」(ドゥルー美術歴史博物館)