京都国立近代美術館の4階、コレクション展示室で須田国太郎が特集されています。
(キュレトリアル・スタディズ14 2020年10月8日〜12月20日)
傑作が多い画家ですが、ちょうど、現在、京近美向かいの京都市京セラ美術館で開催されている「京都の美術 250年の夢」にも、彼の最も有名な作品の一つ「犬」が東京国立近代美術館から出張中。
神宮道を挟んでハシゴすれば須田の重要な画業をまとめて観賞することができます。
須田国太郎は、かなり遅く画壇にデビューした人です。
1932年、資生堂ギャラリーで初めて開かれた個展が縁となって人脈ができたことにより、34年、独立美術協会員としてようやく認められます。
ときに彼はすでに43歳となっていました。
その第1回目の個展で展示された「アーヴィラ」が今回、紹介されています。
スペインの赤茶けた街の土壁が織りなす微妙な色調と陰影の美。
デビューと同時に大家の芸風です。
なぜこんなに画壇登場が遅くなったのでしょうか。
須田は1891年(明治26年)、京都の商家に生まれたとはいえ、美術界に全く縁故がなかったのだそうです。
日本画ならともかく、洋画の道を目指して京都で名をあげるには時期が早すぎたのでしょう。
しかし、結果として、画才が若いうちに認められなかったことが、須田の芸術に決定的な影響をもたらしたといえなくもありません。
画家として一本立ちできる目処が立たない中、彼はまず京都帝大で哲学を学ぶことになります。
深田康算からアリストテレス哲学を教え込まれます。
この影響は計り知れないと今回、あらためて感じました。
周知の通り、アリストテレス美学の重要な概念の一つに「ミメーシス」があります。
模倣です。
今回のコレクション展では須田がティントレットやエル・グレコ、モラーレスを模写した作品が紹介されています。
いずれも深い闇と光、濃厚な色彩の美がしっかり模倣され捉えられていると感じます。
バロック、マニエリスム絵画の光彩と陰影の術を、まさにアリストレテスの美学にしたがって、自身の中に取り込んだといえます。
光をのみ込むような深く黒い闇が須田作品の特徴の一つです。
そして、それによって逆に浮かび上がる対象の存在感。
例えば、1933年の「唐招提寺礼堂」。
画面中央、漆黒が御堂の果てしない奥行きを感じさせる一方、屋根や軒、石段には豊に素材の質感が表出されています。
輪郭がほとんど感じられないのに、建物の存在、それ自体が伝わってきます。
表情をよく読み取れない自画像にしても、そこに紛れもない個性をたたえた「顔」が感得されます。
とにかくかっこいいのです。
赤い目が印象的な東近美の「犬」ですが、京近美のコレクションでも「海亀」や「鵜」といった動物を主題とした名作が並んでいます。
不気味な気配をたたえた「犬」に対して亀や鳥ではなんとなく鷹揚な、あるいはユーモラスな風情が伝わってきます。
それでもずっしりと存在の重さを感じさせる絵。
まさに副題である「写実と真理の思索」が示されていると思います。
須田国太郎は北脇昇に請われて独立美術京都研究所の指導員となります。
その北脇の代表作「クオ・ヴァディス」、「独活」も「京都の美術 250年の夢」展にきています。
須田-北脇ラインの仕事ぶりがまとめて岡崎で確認できる格好の機会かもしれません。
京都国立近代美術館は2020年11月初旬現在、事前予約制をとっていません。
混雑度に応じて整理券を出すようです。
平日の昼間鑑賞しましたが、整理券どころか鑑賞者は数えるほど。
快適に須田芸術と静かに向かいあうことができました。