⼤阪中之島美術館 開館記念
Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―
■2022年2月2日〜3月21日
関西美術界、ハード面における今年最大のトピックスです。
大阪中之島美術館が、無事、開館しました。
オミクロン緊急事態宣言が出たら容赦なくこういう不経済的な道楽の館は閉じてしまい、ドヤ顔しそうな行政トップさんの思惑がやや心配になり、タイミングとしては早いかなあと思いつつ、平日の午後、初訪問してみました。
京阪渡辺橋駅から少し歩きますが地下通路内が大半を占めますから天気にあまり関係なくアクセスしやすいミュージアムです。
入場券売場にちょっと行列ができていて、それなりに混み合ってはいたものの、さほどストレスなく鑑賞できました。
ただ、コロナで抑えられているとはいえ、週末等は当面の間、かなりの入場者数になりそうな感じではあります。
とにかく驚くのはその大きさです。
お隣の国立国際美術館が地下に広大なスペースを隠しているのとは対照的に、こちらは堂々たる地上5階建。
真っ黒な箱の中に巨大な空間を造りあげています。
大阪といえばこの人、ヤノベケンジの超大型ロボや宇宙猫が出迎えてくれます。
シーザー・ペリによる国際美術館のオブジェ的エントランスをまるで借景のように取り込んでいるようにも、あるいは逆にペリのメタリックな造形物に黒の背景を提供しているようにも見える中之島美術館。
この二つの美術館が生み出す光景は大阪の新名所的「顔」になりそうです。
「大阪市立近代美術館建設準備室」としてのスタートから約30年が経過しています。
この間、6000点余りにも及ぶコレクションを蓄積してきたのだそうです。
こけら落としでそのほんの一部を公開したことになりますが、それでも物凄い数です。
全館丸ごと使ったコレクション展。
じっくり鑑賞したら3時間では終わらないと思います。
四半世紀以上のフリーズ期間を経て、一気に「解凍された美術館」です。
もともと天王寺の市立美術館や堂島の東洋陶磁美術館との差異をはかるため、大阪市が「近代」を主軸に置いて計画した美術館です。
その長い長い準備室時代、コレクションの基礎として優先されたカテゴリーの一つが、「椅子」でした。
この美術館は「生活の中の芸術」をコレクション基本方針に含めていたことから、モダン家具工芸をターゲットにその収集をスタートしたのだそうです。
時代は1990年代前半。
まさにバブル崩壊直後です。
5階のコーナーには、今はなき天保山のサントリーミュージアムが誇ったポスターコレクションを背景としながら、夥しい椅子や家具類が並べられていました。
アール・ヌーヴォー、ウィーン工房、バウハウス。
ようやく「解凍」された中之島美術館には、20世紀末日本におけるアートシーンの空気が充満しています。
コロマン・モーザー(Koloman Moser 1868-1918)のデザインによる椅子が撮影可能な状態で展示されています。
同型のアーム・チェアを何度も観たはずなのですが、今回、発見がありました。
添えられた解説ボードに「肘掛と座面の接合部分」に関するこだわりのコメントがありました。
「半円形」のくりぬきがみられるのです。
これには気がついていませんでした。
白黒スクエアのモダンな設計ばかりに注目してしまうデザインなのですが、半円をいちいち丁寧に施したモーザーの仕事に感嘆させられます。
これは実際座ってみないと気がつきにくい造形美です。
モーザーは、当たり前のことですが、この椅子に座る人を意識して周到にデザインをしています。
購入してから30年。
モーザーの椅子を、いつ開館するかもわからない準備室収蔵庫の中で賞でてきた学芸員たちの心象まで感じられてしまう、涙なくしては鑑賞できない椅子です。
とはいえ、時間の流れは残酷でもあり、特にウィーン工房関連のコレクションについては、近代美術館準備室がフリーズしている間に、愛知の豊田市美術館が収蔵品を拡充。
いまやホフマンやモーザーの作品に関してはそちらの方が有名になってしまいました。
でも、大阪中之島美術館の椅子コレクションは豊田市にはない歴史の幅や地域の広がりがあります。
バウハウスやアアルト以降の、例えばイルマリ・タリオヴォーラといった北欧系の作品なども入手していて、最近の収蔵品には倉俣史郎まで含まれています。
また、いまや手垢がついてしまったかのような世紀末家具にしても、ヴァン・ド・ヴェルドの大型キャビンなど、息を呑むほど美しい状態で保たれている逸品がコレクションされていて、質量共に国内随一のクラスであることは間違いないでしょう。
今回はお披露目展だったので、やや展示が画一的で、まるで椅子の見本市のような単調さがありましたが、焦点を家具工芸に絞り、照明などを工夫してさらに展示品のバリエーションを広げれば、十分、「20世紀椅子デザイン史」のような特集企画が可能と思われます。
次回のモディリアーニ特集は苦手な画家なのでおそらくパスですが、「大阪市立近代美術館」を目指していた頃の20世紀モダンデザイン展を今後はぜひ期待したいと思いました。