横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション
トライアローグ
■2020年11月14日〜2021年2月28日
■横浜美術館
西洋20世紀美術の教科書展のような内容となっています。
ピカソからゲルハルト・リヒターまで、ほぼ満遍なく巨匠たちの作品が連なり、この世紀に現れた様々な代表的美術の潮流が網羅されています。
展示は120点を越える規模。
圧巻です。
よくよく考えてみると異様ともいえる美術展です。
20世紀美術のメインストリームが日本の地方公共団体3美術館のコレクションで把握できてしまうわけですから。
この分野でいえば東京と京都に国立の近代美術館があり、大阪の国立国際美術館も同系統。
でも、これら国立3美術館のコレクションを総合しても、これだけの質と西洋美術史の教科書的網羅性を両立した展覧会の開催はかなり骨の折れる企画になるのではないでしょうか。
都の現代美術館にしても偏りが出てしまう。
こと20世紀アートに関しては、「地方分権」が見事に成功しているようです。
展覧会は3部構成。
1900年あたりを起点に30年単位でコーナーを区切っています。
最も古い作品は1902年制作のピカソ「青い肩かけの女」(愛知県美術館)。
1991年のジョセフ・コスース「哲学者の誤り#2 よきものとやましくない良心」(富山県美術館)が最も新しい。
3つの美術館による30年周期の3コーナー。
同一アーティストの3つの作品を並べてみるなど、「3」という数字にこだわっているのもこの展覧会の特徴です。
ピカソやレジェ、クレーにミロ、マグリットなど、3つの作品を取り上げられた芸術家たちの中で、とりわけ面白かったのがポール・デルヴォーでした。
鈴木清順も愛した奇想のベルギー画家。
3館とも80年代に入手しています。
中でも横浜美術館蔵の「階段」はその由来も興味深いものです。
新潟、大光相互銀行(現大光銀行)を率いた駒形十吉(1901-1999)が、1964年に開設した長岡現代美術館。
「階段」は以前、そこに収蔵されていた作品です。
この美術館は早くからポップアートにも着目したその新奇性で注目を集めたそうですが、1979年、銀行の経営問題などで休館に追い込まれ、コレクションを売却。
その中にあった「階段」を買い取ったのが横浜美術館でした。
この美術展の図録(左右社刊)には鍛冶屋健司の「日本の美術館における西洋美術コレクションの形成」という興味深い論稿が載せられています。
上記横浜美術館によるデルヴォー入手の経緯もこの文章で知りました。
70年代末からバブル期まで、なぜ日本の公立美術館が多数の20世紀アートを収集することができたのか。
答えはズバリ「円高」です。
どんどん高額美術購入予算が地方にも気前よく配布されました。
円を売ってアートを買う。
わずかでも円の価値を下げる効果が期待されたようです。
今から考えると子供じみた愚かな話ですが、そのおかげで、こうした美術展が現在、身近に楽しめているわけです。
非常に皮肉なレガシーともいえます。
1960年以降の30年をあつかったコーナーにはフランシス・ベーコン、ロバート・ラウシェンバーグ、ジム・ダイン、ウォーホルにリキテンスタインと、時代を画したアイコン的アーティストの名作が漏れなくとりそろえられています。
もちろん例えばマーク・ロスコが一点もない等、かなり穴はありますが、十分「20世紀アートの教科書」展として機能する内容だと思います。
昨年国立新美術館が特集し、大きな話題を集めたクリチャン・ボルタンスキーの「ジャズ高校の祭壇」(横浜美術館)、ゲルハルト・リヒター「オランジェリー」(富山県美術館)等、現代に生きる大家たちの作品まで。
現代アートの展示を得意とする横浜美術館のゆったりとした空間が活用されています。
なお、これから他の2館を巡回するわけですが、各回微妙に展示品が異なるようです。