六波羅蜜寺の新宝物館

 

今年、2022年5月22日、予定通り六波羅蜜寺の新しい寺宝館である「令和館」がオープンしました。
初めて入館してみました。

見やすくなった面もたしかにありますが、以前の宝物館の方が彫像との独特の「近さ」があったので、新館への収蔵によって整えられてしまった分、身勝手な鑑賞者としては、やや残念な印象を受けてもいます。

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「令和館」は本堂裏手にあるさほど広くはない境内北西側スペースに新設された二階建ての建物です。
従来の宝物館は今のところそのまま残されていて、「令和館」の南に隣接しています。

平安時代から続く名刹にも関わらず、歴史に翻弄されてきた六波羅蜜寺の境内地は非常に限られています。
新宝物館の建設により、ほとんど敷地の全てを建物が埋め尽くすような格好になりました。
なお、拝観料は旧宝物館時代から100円アップの600円(一般料金)となっています。

旧宝物館には、靴を脱ぎ一旦本堂に上がったあと、その縁側を通って入場していました。
令和館は本堂とは切り離された独立の建物で、入口も別に設けられています。
いちいち本堂を経由する必要がなくなった点はスマートで結構なのですが、この新宝物館でも、なぜかエントランスで靴を脱ぎ室内用のスリッパに履き替えることを求められます。
合理的に設計された現代仕様の建築です。
床材に特段デリケートなマテリアルを使っているとも思えません。
後述の通り、彫像群は全てガラスケース内に収められ、下足が運ぶ土埃や湿気からも守られているはずです。
履き替え用のスリッパ数上限を設定することで入場者数を絞る目的もあるのかもしれませんが、この今更ながらの「土足禁止」措置には疑問を感じました。

ハイシーズン、多人数の修学旅行生グループなどとかち合うと、この入口での「履き替え」混雑だけでストレスを感じそうでもあります。

 


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全ての彫像がガラスケースに収蔵されています。
反射を抑えた最新仕様の素材が使われていて、鑑賞には何の問題もありません。
物理的な鑑賞者との距離も以前に比べると短くなっていて細部まで肉眼で視認できます。

特に空也上人像は、コーナー部分に設置されているので、従来は見えにくかった右側面からのアプローチによる鑑賞がしやすくなっています。
口から飛び出す六体仏を真横の角度からじっくり眺めることができ、その異形の美しさが引き立っています。
最新の照明装置によって陰影を伴いながら展示されている彫像群は、以前よりも総じて質感が豊かに浮かび上がっているように感じられました。

でも、前の宝物館に陳列されていた時に感じられた、像との「そっけないまでの近さ」が醸成していたと思われる鑑賞時の「旨味を伴った雑さ」が、変な言い方ですが、「殺菌されすぎてしまった」という印象も受けます。
空気と遮断され、ガラスに閉じ込められてしまった仏教彫刻たちとの「距離」が、慣れの問題だけなのかもしれませんが、ちょっと感じられてしまうのです。
もちろん、文化財保護の面で見れば、格段に令和館での陳列の方が旧宝物館より優れているわけで、六波羅蜜寺の展示方針自体に異論はないのですが。

なお、芸術性の点で空也や伝清盛像に勝るとも劣らない六波羅蜜寺の至宝「地蔵菩薩立像」ついて、新たに制作されたとみられるのタイトルプレートでは「定朝作」と断定的に記載がなされています(凝った印字のせいで読みにくい長文の解説文内では「定朝と伝わる」と表記はされていますけれども)。
その典雅な表情が平等院阿弥陀像に通じるところが確かにあります。
しかし、学術的にこの像を定朝の手によるものとする根拠はまだ明確に示されてはいないはずです。

解説板のタイトルでは作者名を無記とした方がふさわしいように思います。