デザイナーとしての堂本印象|堂本印象美術館

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特別企画展 生誕130年 描く・飾る・デザインする ー堂本印象の流儀ー

■2021年12月3日〜2022年3月21日
京都府立堂本印象美術館

 

堂本印象が京都で誕生したのは1891(明治24)年12月25日。

クリスマスに生まれた日本画家ということになります。

生誕130年を記念して衣笠の堂本印象美術館では、今年すでに全館をあげて彼の絵画作品を特集しています。(「生誕130年 堂本印象」展 2021年6月4日〜9月26日)

その続編として主に日本画以外の作品に焦点をあてた企画展が開催されました。

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多芸な上に、比較的長寿(1975年没・83歳)をまっとうしたこの人は、着物図案から茶碗や皿の意匠、ポスターに寺の襖絵、建築内装、さらには神社の鳥居までデザインしています。

前回の日本画展と合わせて、あらゆる方面にその足跡を残した堂本印象の全貌に迫る、まさにこの美術館ならではの企画展。

19歳で京都市立美術工芸学校を卒業した堂本三之助がまず手がけた仕事は西陣織の図案製作でした。

醸造業を営んでいた生家が事業に失敗したため、手早く収入を得る必要があったのでしょう。

20歳の頃から「印象」と名乗りはじめます。

1918(大正7)年、27歳であらためて市立絵画学校に入学しなおし、本格的に日本画家を目指すことになります。

つまり、堂本印象はまず染織工芸の世界に身を置いた人です。

はじめから、日本画だけではなく、さまざまなデザインを手掛ける素地をこの画家は持っていたわけで、それがとんでもなく多岐にわたる分野での仕事につながったといえるかもしれません。

もっとも、染織の世界は京都画壇と非常に近い関係にあり、これは堂本印象に限った話ではありません。

しかし、ふろしきからガラス装飾のデザインまで手がけた彼の振り幅の広さをみると、生活のためであったにせよ、最初に手がけた染織図案の仕事は、日本画固執することなく貪欲にクリエイティブな活動続けた印象の原点といえると思います。

 

大正年間に印象が図案を描いた染織の名品が展示されています。

奈良・吉野の大材木商、北村家の注文による振袖三点。

後にその当主、北村謹次郎が設立した北村美術館の所蔵品を借り受けて陳列しています。

華やかな色彩のグラデーションと細密な写実美で描かれた花鳥の図柄。

シックにしてゴージャスなのですが、一羽だけ正面を向いて見る者に視線を投げかける鶴の姿を描きこむあたりに、この人らしい遊び心が見てとれます。

1934(昭和9)年には雑誌「婦人公論」の表紙絵を担当。

1937(昭和12)年、当時の鉄道省からの注文で奈良をイメージしたポスターを手がけています。

すっきりとした線描による整えられた造形は当時のモダンなセンスを好むニーズにぴったり応えたものと思われます。

戦前、この人はすでに第一級の、いわばグラフィックデザイナーとしての地位を築いていたともいえます。

昭和の後期に入ってくるとがらりと作風を変え、具象的な作品と入れ替わるように抽象的な絵画、デザインが多くなります。

岐阜県岐阜市にある瑞甲山乙津寺(おっしんじ)の襖絵は1968(昭和43)年に描かれたもの。

「交響」(1962)、「はるかなる海」(1967)といった彼の抽象系絵画と共通する大胆で立体的な図柄が襖いっぱいに描かれています。

鮮やかな色彩の乱舞とそれを縦横に仕切る墨の帯。

無限に奥行きが感じられるような大変な傑作です。

寺院内装品の一部であるにも関わらず、保存状態は極めて良好。

通常は非公開とされているので、今回の展観はとても貴重な機会といえます。

 

大阪、肥後町にある輸出繊維会館は1960年の建築。

設計は村野藤吾です。

優雅にうねる階段の曲線と呼応するように、村野にデザインを任された堂本印象のモザイク壁画が建物内部を彩っています。

本展ではその下絵をみることができます。

印象の作品は美術館内にとどまらず、浅草寺の天井画から玉造教会のマリア像大壁画まで、いたるところに出現しています。

伏見・深草の大岩神社大鳥居、紀伊田辺・奇絶峡の磨崖仏などは印象のデザインによって、一種のミステリーゾーンを形成しています。

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しかし、なんといってもその巨大さと存在感において、印象デザインの代表作といえば、ずばりここ、堂本印象美術館でしょう。

両端が大きく反りかえるような独特の形状。

白を基調としながらも、金色の突起や自由に絡みつく草木デザインが異次元建築を現前させています。

柱や窓枠に至るまで印象の造形が隅々にはりめぐらされています。

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アーティスト個人が自らの芸術世界を文字通りそのまま実用建築として実現してしまっているという点で、この美術館ほど特異な例は日本国内において、あまりないように思います。

内部も堂本ワールドそのものです。

今回は印象が描いた内部装飾の下絵が何点か展示されています。

建物の中で金色に輝くその姿を見ると奇妙奇天烈な印象を受けますが、一つ一つの装飾はとても緻密に製図されていたことがわかります。

何度きても不思議な感覚におそわれる美術館です。

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なお、前回の日本画展では、この美術館の堂本印象コレクションの中から観客による人気投票が事前に実施され、その結果が発表されていました。

下記がそのランキングです。ご参考。

1位 「はるかなる海」
2位 「兎春野に遊ぶ」
3位 「木華開耶姫」
4位 「交響」
5位 「春」
6位 「風神」
7位 「柘榴」
8位 「雪」
9位 「坂」
10位 「夕顔図」

私個人としては、絵画がまるで音響と文字にメタモルフォーゼしていくように見える「交響」と、往時の五条坂を描いたという「坂」がお気に入りです。
(なお、投票に参加はしていません。)

 

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