泉屋ビエンナーレ2023 Re-sonation ひびきあう聲
■2023年9月9日〜10月15日
■泉屋博古館
古代中国と令和日本、約3000年の時を隔てて響きあう「鋳物」の展覧会です。
このミュージアムらしい、というか、ここしか企画できなさそうなオリジナリティがあって楽しめました。
泉屋ビエンナーレ2023 Re-sonation ひびきあう聲 | 展覧会 | 泉屋博古館 <京都・鹿ヶ谷>
「泉屋ビエンナーレ」の第2回にあたる企画展です。
2021年に開催された第1回展も鑑賞しています。
ただこのときは、「青銅器館」に設けられたコーナーでやや控えめに披露されていて、作品数もそれほど多くはなかったと記憶しています。
若手女性作家を中心としたその作品群は、ちょっと「かわいい」系のカジュアル風味を大切にしているところがあって、その「お手頃感」が面白かったものの、私の好みの範疇には入ってこなかった印象がありました。
他方、2回目となる今回は作家の数が大幅に増強されています。
若手、というよりそろそろ中堅に入りそうな実力派の鋳物現代アーティストの名前も見受けられました。
場所も今回は企画展コーナーをまるまる使っていて、前回展よりかなり本格的な内容に仕上がっていると感じます。
住友春翠の中国青銅器コレクションを収蔵品のコアとする泉屋博古館は、いままでも「鋳物」にこだわった企画展を開催しています。
特に印象に残っているのは、2021年春に開催された「鋳物・モダン」展でした。
富山大学が蔵する「大郷コレクション」をはじめとする近代日本の伝統的な鋳物作品が幅広く紹介され、一大生産地である高岡市を中心として受け継がれてきた技巧の数々に目を奪われた素晴らしい特別展でした。
今回の泉屋ビエンナーレにも高岡のご近所、金沢の美術工芸系大学で学んだアーティストが複数名、参加しています。
伝統工芸とモダンアート、分野は違いますが、ちょっとした「北陸つながり」も感じられます。
上田剛(1986-)も金沢美術工芸大学で学んだアーティストの一人。
2010年代頃から受賞歴を重ね、現在は母校の講師も務めているという実力派です。
彼が自身の作品と「響きあう」ために選んだ春翠コレクションの青銅器は「鳥蓋瓠壺」。
前5世紀、春秋から戦国時代頃に製作されたと見られる非常に珍しいスタイルの作品です。
いまだに蓋部分の開閉が可能という2500年前につくられたこの器、その最大の美質要素は、なめらかな表面に現れた緑青の透明感でしょうか。
上田もこの色に魅せられたようです。
彼の作品「artifact」(2023)は下部が窄まった、どこか日本における古墳時代の埋蔵品を思わせるようなシンブルな円筒形をしていますが、全面を緑青の色彩が取り巻いています。
鋳物のもつ形状の美しさを活かしながら、その金属としての「移ろいの美」を表面に現れる化学変化によって表現しているのでしょう。
人為と自然の「成り行き」が創りだす美しさはどこか「やきもの」的な面白さすら感じさせます。
さて、本展のキービジュアルに採用されている「time cupsule」(2023)を製作したアーティストが久野彩子(1983-)です。
この作品のイメージ元となった青銅器は「円渦文敦」。
これも戦国時代頃に製作された、食器の一種です。
久野はこの極めてユニークな形状をした器から、さらに自由に着想を膨らませていったのでしょう。
まるで一個の人工的な小惑星のような鋳物作品を創造しています。
ロストワックス技法を駆使して制作されるという久野の作品には、金属の「塊」感と繊細な造形美が融合していて、古風さと未来っぽさが不思議に混在しているような独特の世界観が表現されているように感じられます。
古代と未来。
まさに「time cupsule」というタイトル通りでもあるし、この泉屋ビエンナーレ自体の企画精神に合致している作品といえるかもしれません。
他にも楽しい作品がいくつもありました。
地元宮崎県で「三三鋳金工房」を主宰しているという杉原木三(1980-)の「猫鎛(ねこはく、と読むのでしょうか)」(2023)は、なんと実際に叩いて音を出すことができます。
イメージ元が「虎鎛」(西周前期 紀元前11〜10世紀)ですからシャレも効いているのですが、叩いても猫の鳴き声がするわけではありません。
澄み切った銅の高い音が館内にカーンと響きます。
さて、鹿ヶ谷の泉屋博古館は来年、2024年、一年間かけての本格的な改修工事に入るそうです。
お気に入りのミュージアムなので1年もの閉館は困るなあと思いつつ、どのような姿に生まれ変わるのか楽しみでもあります。
再開は2025年ですから、「泉屋ビエンナーレ」、その第3回展がきっと開催されるのでしょう。
リニューアル後の記念展として今回以上の充実ぶりを期待したいと思います。